妻と娘が選んだのは、俺ではなかった第2話
この話は約1477字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
事情を尋ねると、担任から返ってきた言葉に心が冷え切った。
「1時間ほど前、お母様のアシスタントの方が迎えにいらっしゃいました。急用があるとのことでしたが、ご存じなかったのでしょうか」
「ええ、聞いています。通学バッグはしばらく学校で預かっておいてください。用事がありますので、これで失礼します」
どうにか話を合わせて電話を切った。
家族のグループLINEに貼られた完璧なスケジュールを見ていると、吐き気がした。
いつからこれは、俺を欺くための道具になっていたのだろう。
深く息を吸って気持ちを落ち着かせ、日和のスマートウォッチから位置情報を確認した。
表示された場所へ車を走らせる。
目的地は遊園地だった。
日和を見つけた瞬間、俺はその場に立ち尽くした。
香澄はTシャツとジーンズというラフな格好で、颯人に肩を抱かれながら話していた。
日和はメリーゴーラウンドに乗り、二人に向かって笑顔でポーズを取っている。
颯人は日和の写真を撮る合間に、香澄の頬へキスをした。
どこからどう見ても、仲のいい家族そのものだった。
足が地面に縫いつけられたように動かなかった。
三人の幸せそうな姿を、俺は離れた場所から見つめていた。
この遊園地は人気が高く、以前、俺は何度も日和を連れてこようと誘ったことがある。
だが、そのたびに日和は真顔で言った。
「パパ、大人なのにそんなにはしゃがないで。遊園地なんて、時間の無駄だよ」
香澄も仕事が忙しかったため、俺は連れてくるのを諦めた。
今になって分かった。
来たくなかったのではない。俺とは来たくなかっただけだ。
普段は食べ物にあれこれうるさい母娘が、颯人と一緒にファストフードをうまそうに食べている。
誕生日会のために俺が時間をかけて用意した料理には、一度も笑ってくれなかったというのに。
スマホが震えた。
知らない番号から、三人が寄り添って写る写真が送られてきていた。
【妻と娘を失望させない。それが、よき夫というものです】
俺はその写真を保存し、踵を返した。
桐谷家を背負う俺が、いつまでも黙って踏みにじられているつもりはない。
日和が帰宅したとき、俺は荷物をまとめていた。
服や腕時計は使用人に任せればいい。重要な証明書や資料だけは、自分で確認する必要があった。
俺の姿を見るなり、日和は事情を知っていたかのように冷たい顔で責め立ててきた。
「パパ、たったあれくらいのことで離婚するの?学校のみんなに知られたら、私がどんな思いをするか考えた?もっと大人になってよ!言っておくけど、離婚しても絶対パパのところには行かないから。自分のことしか考えない人なんて、私のパパじゃない!」
話すうちに、日和の声はどんどん大きくなっていった。
その目にあったのは、俺への苛立ちだけだった。
これまで大切に育ててきた娘を見つめた。
いつものように優しく言い聞かせることはせず、冷たく告げた。
「俺を父親だと思わないなら、もう好きにしろ」
日和の表情が凍りついた。
目にはみるみる涙がたまったが、意地を張ってそっぽを向いた。俺がなだめてくれるのを待っているのだろう。
だが、俺は日和に構わず荷造りを続けた。
しばらく待っても声をかけられないと分かると、日和は鼻を鳴らして部屋を出ていった。
昔の日和はこんな子ではなかった。
聡明で明るく、誰よりも俺になついていた。
日和にとって、香澄は憧れの存在だった。
だから香澄の真似をして、何度も俺の我慢を試し、やがて完全に見下すようになった。
もういい。
これ以上、父親だからというだけで一方的に尽くす気はなかった。
荷物を少しまとめ終えたところで、困り果てた様子の執事がドアをノックした。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)