妻と娘が選んだのは、俺ではなかった第3話
この話は約1462字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
「旦那様、お嬢様がどうしても物置に入って、幼い頃のぬいぐるみを捜すとおっしゃって……私どもでは止められません。物置は埃っぽいので、もし喘息の発作でも起きたら……」
俺はスーツケースを閉じ、息を吐いた。
「俺が捜す。お前たちは日和を止めていろ」
ところが、物置に足を踏み入れた途端、背後でドアが閉まった。
外から、得意げな日和の声が聞こえてきた。
「パパは今日、ルールも予定も破ったから、罰を受けなきゃいけないの。私に謝ったら出してあげる。謝らないなら、今夜はずっとそこにいて」
俺が答えずにいると、日和の声に焦りが混じった。
「スマホは外にあるから、誰も助けに来ないよ」
俺は物置の明かりをつけ、冷たく答えた。
「好きにしろ」
「今夜はママが颯人さんを連れて帰ってきて、お祝いのパーティーをするんだから。邪魔しないで、そこでおとなしくしてて!」
日和の声が急に甲高くなった。
それから感情に任せてドアを蹴り、そのまま立ち去った。
遠ざかる足音を聞きながら、俺はドアに背を預け、力なくうつむいた。
物置に置かれているものを見回すと、また胸が痛んだ。
その大半は、俺が香澄と日和のために用意したプレゼントだった。今では分厚く埃をかぶり、中には包装すら解かれていないものもある。
埃も気にせず、プレゼントを一つずつ開けていった。どれも、家族と過ごした幸せな日々を思い出させるものばかりだった。
舞い上がった埃にむせて咳き込み、目に涙がにじんだ。
最後の包みまで開け終えると、俺はプレゼントを一か所に積み上げ、ライターで火をつけた。
狭い物置はたちまち煙に包まれ、火災報知器がけたたましく鳴り響いた。
使用人たちが慌ててドアを開け、俺を外へ引っ張り出すと、すぐに消火を始めた。
そこへ血相を変えた香澄が駆けつけ、いきなり俺の頬を平手で打った。
「修司、正気なの?家に火をつけるなんて!颯人が気に入らないからって、あの人のお祝いを台なしにするつもりだったんでしょう!」
ドレスを着た日和も、整った顔を怒りでいっぱいにしていた。
「パパがルールを守らなかったんだから、罰を受けるのは当然でしょ!」
そう言うと、使用人たちに命じ、俺がまとめたスーツケースを火の中へ放り込ませた。
日和は、俺が取り乱して怒鳴り散らすのを待っていたのだろう。
だが俺は、燃えるスーツケースを一瞥しただけで、まっすぐ広間へ向かった。
俺の行き先に気づいた香澄が腕をつかみ、冷たい声で問いただした。
「何をするつもり?」
俺はその手を力任せに振り払い、大股でパーティー会場へ向かった。
背後から香澄の痛がる声と、日和が心配そうに呼びかける声が聞こえたが、一度も足を止めなかった。
広間へ入ると、颯人が俺の服を着て、満面の笑みで招待客と談笑していた。
すっかり主役気取りだった。
だが、それ以上に俺の息を詰まらせたのは、颯人の腕に巻かれた時計だった。
両親が俺の成人祝いに贈ってくれたものだ。
時計は鍵のかかる棚にしまってあり、暗証番号を知っているのは俺と香澄だけだった。
誰が颯人に与えたかなど、考えるまでもない。
俺は颯人の驚いた顔にも構わず近づき、その腕から時計を強引に外した。
引っ張られた颯人はよろめき、危うく転びそうになった。
追ってきた香澄が慌てて颯人を支え、怒りを押し殺した声で言った。
「修司、いつまで騒ぐつもり?海外案件を取れたのは颯人のおかげなのよ。これ以上暴れるなら出ていって!」
香澄の目に宿る怒りと、日和の嫌悪に満ちた視線を見ても、もう胸は少しも痛まなかった。
時計を掲げ、香澄に尋ねた。
「この時計を渡したのも、お前か?」
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