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夫が娘の心臓を奪った日第2話

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葬儀の場で、優一を知る人たちはみな、娘を溺愛していたはずの彼が姿を見せないことに驚いていた。

参列者たちは心配そうに、次々と優一へ電話をかけた。

けれど、私には分かっていた。

その電話がつながるはずがないことを。

案の定、葬儀が終わるまで、優一が姿を見せることはなかった。

喉の奥にせり上がる嗚咽をこらえながら、私は出棺の前にもう一度だけ、葵の冷たくなった小さな手を握った。

父親でいる資格もないあの男に邪魔されなかったことは、葵にとって、むしろよかったのかもしれない。

そのまま納骨を迎えるはずだった。

けれど、霊園の職員が血相を変えて駆け寄ってきた。

「広中様、大変です。お嬢様のためにお選びいただいた墓所で、騒ぎを起こしている方がいまして……!」

一瞬、息が止まった。

私は足をもつれさせながら、葵のために選んだ墓所へ向かった。

そこにいたのは、職員の鼻先に指を突きつけ、声を荒らげている律子だった。

「あなた、ただの職員でしょう?どうして勝手に決めるの?」

「言っておくけど、ここは知り合いの風水師に見てもらったの。この霊園で一番いい場所だって言われたんだから。クロを納める時間に間に合わなかったら、あなたたち、ただじゃ済まないわよ!」

職員は困り果てた顔で、何度も頭を下げていた。

「申し訳ございません、お客様。こちらの墓所は、すでにご契約済みでして……

それに、恐れ入りますが、こちらは人のための霊園です。ペットの埋葬は承っておりません」

「ここを使わせるかどうか、あなたに決める権限なんてないでしょ。誰が契約したの?その人を呼んで。お金ならいくらでも払うから」

優一は律子をなだめながら、職員を見据えた。

「聞こえなかったのか。責任者を呼んでこい」

優一に味方されたことで、律子はさらに調子づいた。

彼女は優一に身を寄せたまま、次の瞬間、職員の頬を平手で打った。

「聞こえたでしょう?責任者を呼ぶか、この墓所を契約した人を連れてくるか、どちらかにしなさい。でないと……」

「それを契約したのは、私よ」

私は人垣を抜け、優一と律子のもとへゆっくり歩いていった。

私の姿を見た瞬間、優一ははっとしたように律子から身を離した。

そして、足早にこちらへ向かってくる。

目が合った瞬間、彼の瞳がかすかに揺れた。

「紗穂……?どうしてここにいる。葵のそばにいてやらなくていいのか。霊園なんかで何をしてるんだ」

そこでようやく、彼は私の言葉の意味に気づいたように眉をひそめた。

「待て。今、この墓所を契約したのはお前だと言ったのか?何のために?」

私はこみ上げてくる涙を必死にこらえ、顔を上げて彼を見た。

「優一、よく葵の名前を出せるわね。この墓所は、葵のために――」

「ああ、優一さん!早く拓馬を見て!」

律子の甲高い声が、私の言葉をかき消した。

「この子、顔色が真っ青なの。ねえ、早く!」

優一の目に浮かんでいた動揺は、一瞬で消えた。

彼はためらうことなく私から目をそらし、拓馬のもとへ駆け寄った。

優一は拓馬の顔色を確かめながら、できるだけ優しい声でなだめていた。

「大丈夫だ。怖くないからな。おじさんがいる。大丈夫だよ」

律子は勝ち誇ったように口元を緩めると、ゆっくりと私のほうへ歩いてきた。

その目は明らかに私を挑発しているのに、声だけはわざとらしいほどしおらしかった。

「ごめんなさいね、紗穂さん。まさかここをあなたが押さえていたなんて。……でも、今すぐ必要には見えないわよね?よかったら、私たちに譲っていただけないかしら。

うちのクロね、一昨日、変なものを食べてしまったの。あんな死に方をするなんて、本当にかわいそうで……拓馬もすっかり参ってしまって、この通り顔色まで悪くしているの」

「消えて」

私は顔を上げ、冷えきった声でそれだけを言った。

次の瞬間、律子の芝居がかった泣き声が霊園に響いた。

優一が勢いよく立ち上がり、大股でこちらへ歩いてくる。

私を見下ろす彼の声は、これまで聞いたことがないほど冷たかった。

「紗穂、葵のことで怒っているのは分かる。だが、それを律子にぶつけるな。拓馬の顔色を見ただろう。子どもがあんなに怯えているのに、お前は何とも思わないのか」

そう言うと、彼は霊園の職員に顔を向けた。

「この墓所は、妻には必要ない。相川さんに譲るから、必要な手続きを進めてくれ」

「ふざけないで!出ていって。あの女と、その子を連れて、今すぐここから出ていって!」

私が言い切った直後、優一の手が振り上げられた。

乾いた音が響き、頬に焼けるような痛みが走る。

「いい加減にしろ、紗穂!お前にはもう、うんざりなんだよ!」

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