君への三通目の手紙は、遺書だった第2話
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佳凜は、ふらふらと大通りを歩いていた。
手には、病院から渡された「死の宣告書」を握りしめている。
「つまり……つまり、私に残された時間は、一ヶ月もないってこと?」
「申し訳ありません、篠原さん……」
青天の霹靂。いや、こんな衝撃、初めてではなかった。
篠原家は今や風前の灯火、全ての重荷が彼女ひとりにのしかかっている。
あの時、彼女は本当にどうしようもなかった。
誰にも頼れず、彼女は思わず和人に電話をかけた。
せめて、くだらない口喧嘩でもできたなら。
少しは、気が紛れる気がした。
だが、和人は彼女の全ての着信を無視した。やがて面倒くさくなったのか、ついには電源を切って着信拒否までした。
そして、再び現れた彼は、若いモデルを連れて、彼女との新婚のベッドで裸で横たわっていた。
佳凜の孤独と絶望に、彼は気づきもしない。
彼が見ていたのは、ただただ自分の嫌悪と反感を掻き立てる彼女の顔だけだった。
彼はわざと、彼女の目の前でモデルと濃厚なキスをした。唇の端から垂れる銀糸が、佳凜の目を刺す。
「なあ、そろそろ離婚、するか?」
佳凜は平静を装い、その部屋を逃げ出した。
大江市(おおえし)では、誰もが子供の頃から佳凜と和人が犬猿の仲だと知っている。顔を合わせれば喧嘩ばかり。
そして皆、佳凜が和人を嫌っていると思い込んでいた。和人が彼女を嫌っているのと同じように。
佳凜は自分の薬指の指輪をそっと撫でる。それは、結婚後に無理やり渡された和人からの指輪。
彼が持ってきたとき、指輪の箱は彼女の顔に投げつけられた。
最初、佳凜は自分の想いを必死に隠していた。
けれど、和人が彼女に妻の義務を強要したあの日。
その最中、彼の指が彼女の薬指の指輪に触れた。
和人は、急に吹き出して笑った。
「お前、まさか俺のこと好きで、離婚したくないってわけじゃないだろうな?
だったらやめとけよ。俺は絶対にお前を好きにならない。てか、むしろ大嫌いだからな!」
彼の嫌悪には、理由がある。
久遠家と篠原家は、早くから政略結婚で縛られていた。そのせいで、和人の初恋の人は海外に追いやられたのだ。
その夜、佳凜は眠れずに夜明けまで目を開けていた。
母は早く亡くなり、愛する人をどうやって繋ぎ止めればいいのか、誰にも教わらなかった。幼い彼女は、意地悪な言葉や皮肉でしか、和人に自分を見てもらう方法を知らなかった。けれど、それからどうすればよかったのか。
佳凜は乾いた目を瞬かせた。
スマホの振動音が、彼女の思考を乱す。
画面を見ると、和人がラインのグループチャットでスタンプを連投していた。
【なになに?どうしたんだよ?】
和人は黙ったまま、離婚協議書のサイン済み写真を放り投げる。
ただ一枚の写真が、まるで爆弾のようにグループの静寂を破った。
【マジ?離婚したの?あの女が同意したのか?】
【神すぎるニュース!和人、ついに厄介な女を切り捨てたか!】
【これはめでたいぞ!お前、前に言ってたじゃん、毎晩あの女の顔見るたびに吐き気してたって。これでやっと自由!モデルもアイドルもよりどりみどりだな!】
【でもさ、不思議じゃねえ?和人って今まで何人も女抱いてたのに、あいつは黙ってたよな。今回だけなんで急に同意したんだ?冗談じゃねえ?離婚証明書を取る日、すっぽかされるパターンじゃねえよな?】
その言葉が落ちると、グループは静まり返った。
直後、佳凜のスマホが鳴った。
「お前、まさか俺をからかってるんじゃないだろうな?離婚証明書ができたら、役所に来ないんじゃねぇだろうな?」
佳凜は蒼白な顔で、かすかに笑みを浮かべた。
そっと、電話口にささやく。
「ああ、そうよ。からかってるだけ。
あなた、どうするつもり?」
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