君という名の星第2話
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私は一歩うしろに下がって、悠斗のキスをかわした。
「今日はお仕事おつかれさま。はやく休んでね」
悠斗の驚いた顔は気にせず、私はスマホを置いて洗面所へ向かった。
顔を洗いおわると、スマホに未読メッセージが一件きていた。
会社の共同経営者で、幼馴染の岡本蘭(おかもと らん)からだった。
【ほんとに悠斗さんを置いてF国へ行くって決めたの?もしまたすぐ帰ってくるようなら、絶対にお説教するからね】
【冗談じゃないよ!】
私は思わず口元をゆるめた。
【もしまた途中で帰ってきたら、これから一生、あなたの言う通りにするって誓うわ】
……
3年前、会社で地方の事業開拓を担当する人が必要になった。
私は悠斗と相談して、その役目を引き受けることにした。
でも、私が出発してから3日目に、悠斗が胃の痛みで入院した。
私はその日の夜の飛行機で、急いで帰った。
それ以来、私はずっと本社勤務を続けていた。
悠斗とは5年付き合って、結婚して7年になる。
高校生のころから、彼がなにかに夢中になると寝食を忘れてしまう人だってことは、知っていた。
地方の支社へ行ったら、1年に数回しか会えなくなってしまう。
悠斗を一人で残していくのが、どうしても心配だった。
結婚してから、友達によく聞かれた。「どうしてあんな野心のない男の人と一緒になったの?」って。
悠斗は彼氏としてはいいけど、結婚には向かない人だって。
私は笑って、こう答えるの。
「だって彼は、心も体も、私を救ってくれた人だから」
親の事情で、私はうつ病を患っていた。
自暴自棄になり、海の底へ沈んでいこうとしたまさにその時、悠斗が飛びこんで私を救ってくれた。
その後も、どんな日も欠かさず、彼は何度も、私のカウンセリングに付き添ってくれた。
私の病状が落ち着いてから、悠斗に聞いたことがある。
「あの時、怖くなかったの?あなたもまだ、あんなに若かったのに」
彼はひらりと手を振って、あっけらかんと言った。「あんなにきれいに笑う人が、この世からいなくなってしまうのは、見てられなかっただけだよ。
それに、これから先、君と二人で、笑って世界を見て回りたい」
あの頃の悠斗は、まさか自分が、私のうつ病を再発させる原因になるなんて、夢にも思わなかっただろう。
人生は選択問題なんかじゃない。
そして私も、彼の決まった答えなんかじゃなかった。
蘭は、私と悠斗の始まりから今までをずっと見てくれていた。
彼女は私の言葉の端々から、悠斗との間に何かあったことを察したらしい。
【世界は広いの。美味しいものもいっぱいあるし、面白い人だっている。前に進む気持ちさえあれば、未来はきっと楽しいものになるよ】
【明日は7月1日。ここからが、新しい始まりだよ】
しばらくして、蘭からまたメッセージが来た。
【F国の会社、1週間後には稼働開始だよ。ねえ、男がいなくても、お金はいるでしょ!】
……
翌朝、私は会社の月例会議に出るため、いつもより早く起きた。
すると珍しく、悠斗がキッチンに立って朝ごはんを作っていた。
私は一瞬、現実がわからなくなった。
彼が料理をするなんて、美緒のツイッタで初めて知ったのだ。
若い女の子は、自分の生活を記録するのが好きなものだ。
美緒は、悠斗が彼女のためにしてくれたことを、全部ツイッタに投稿していた。
たとえば、二人が残業している時には、悠斗が彼女のために料理を作ってあげた。
雨が降った日には、わざわざ職場まで車で送り迎えをした。
記念日や誕生日には、好みの素敵なプレゼントを贈ってあげた。
今回、話題になった件だってそうだ。きっかけは、美緒が、「星が欲しいですよ」と甘えてみせたこと。
それだけで、悠斗は気前よくプレゼントしてしまったのだ。
あの夜、私は自分を痛めつけるように美緒のツイッタを何度も見返した。二人の出会いから今までの物語を繰り返し読み、悠斗が彼女に向ける特別な扱いを、何度も何度も確認した。
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