君という名の星第1話
この話は約1646字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
7周年の結婚記念日、あるニュースがツイッタのトレンドに上がった――
#本日正式発表!国内で新たに発見された惑星、「二宮美緒の星」と命名。
そのすぐ下で話題になっていた投稿の主は、夫の河野悠斗(こうの ゆうと)だった。
【君の名前を、あの星につけた。これで宇宙にいても、君はひとりじゃないよ】
夫の後輩の美緒が、その投稿にこんなコメントを寄せていた。【二人だけのロマンチックなことをみんなに教えてくれて、ありがとうございます!先輩、すごく嬉しいです!】
私はいつものように、必死で悠斗に電話をかけて問い詰めたり、説明を求めたりはしなかった。
彼と7年もこじらせてきて、もう本当に疲れてしまったから。
* * *
夫の河野悠斗(こうの ゆうと)が帰ってきたとき、私はベランダでタバコを吸っていた。
悠斗はタバコの匂いが嫌いで、嗅ぐとすぐに眉をひそめる。
だから彼と一緒になってからは無理に禁煙していた。一時期は禁断症状に苦しんだほどだ。
悠斗は私がタバコを吸っているのを見て、一瞬固まった。でも、とくに何も言わなかった。
彼は何気なく私にプレゼントの箱を渡すと、淡々と言った。
「7周年のプレゼントだよ。
ごめん。今夜は急に残業になっちゃって、連絡するの忘れてた」
「ううん、大丈夫だよ」
最後の一服を終えてから、私は箱を受け取って開けてみた。中には、星のネックレスが入っていた。
箱を閉じて、「すごく嬉しい。ありがとう」と伝えた。
悠斗は呆然としていた。何か言い訳したそうだったけど、言葉が出てこないみたいだった。
彼は驚いた顔で私を見ていた。いつものように、私がしつこく問い詰めてくるとでも思っていたんだろう。
私も、あのトレンドを見たら、きっとヒステリックになって悠斗を問い詰めて、大喧嘩の末、気まずく終わるんだろうと思っていた。
今日は私たちの結婚7周年の記念日。プロポーズしてくれた時のレストランを予約して、悠斗をサプライズで喜ばせるつもりだったのに。
わざわざ仕事を早く切り上げて、国立天文台の入り口で彼を待っていた。
でも、待っている間に、トレンドニュースを見てしまったんだ。
#本日正式発表!国内で新たに発見された惑星、識別番号960306を「二宮美緒(にのみや みお)の星」と命名。
#天文学者の河野悠斗氏、記念すべき初の惑星発見
そのすぐ下で話題になっていた投稿の主は、悠斗本人だった。
【君の名前を、あの星につけた。これで宇宙にいても、君はひとりじゃないよ】
添えられていたのは、レストランで美緒と顔を寄せ合っているツーショット写真。
美緒は、その惑星の命名証明書を手に持っていた。
コメント欄を開くと、一番「いいね」がついていたのは美緒のコメントだった。【二人だけのロマンチックなことをみんなに教えてくれて、ありがとうございます!先輩、すごく嬉しいです!】
私はスマホを助手席に放り投げ、予約していたレストランへと車を走らせた。
私はひとり、二人分のステーキを食べた。もうすぐ終わる私たちの7年間の結婚生活を弔うかのように。
もう一本タバコに火をつけようとしたとき、悠斗が私の手からライターをひったくった。
彼は少し眉をひそめて言った。「タバコ、やめたんじゃなかったのか?」
「急に吸いたくなっちゃって」私はタバコを箱に戻すと、部屋で休もうと立ち上がった。
すると悠斗が私の手首を掴み、複雑な表情で言った。「今日は、結婚記念日だろ」
私は戸惑う表情で、彼を見つめ返した。「それが、どうかした?」
悠斗はさらに眉間のしわを深くした。
「プレゼントがないのは別にいい。でも、記念日の夜なのに、本当にこんな早く寝るのか?」
そう言って彼は、私を抱きしめてキスしようと、顔を近づけてきた。
悠斗には、どこかクールなのに優しい、そんな不思議な魅力があった。
いつもなら、彼がこんなに積極的だったら、私はすぐにその優しさにメロメロになっていたはずだ。
でも今は、悠斗の体から、私のものではない香水の匂いばかりが気になった。
うん、ジャスミンの香水の匂いだ。
美緒がいつもつけてる香水。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)