冷たい指導医の彼氏、別れて後悔してる第2話
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夜、病院を出たときには、外はもう嵐になっていた。
廉太は、たった一本しかない傘を開くと、ごく自然な仕草でアリスを腕の中に抱き寄せた。
そして傘を忘れた私は、二人の後ろで呆然と立ち尽くしている。
廉太は一瞬きょとんとしてから、後ろにいる私へ声をかけた。
「先にアリスを車まで送る。それから戻ってきて、静恵を迎えにくる」
私が何か言うより早く、彼はアリスを庇うようにして、大雨の中へ駆け出していった。
外の風は冷たく湿っていて、私は何度もくしゃみをした。
1時間ほど経ち、私は寒さにぶるぶると震えながら、廉太に電話をかけた。
何度もかけ直すこと20分、ようやく電話がつながった。
向こうからゲームの効果音が聞こえ、廉太の声には、邪魔された苛立ちと一瞬の戸惑いが滲んでいる。
「悪い、忘れてた。
お前も本当にバカだな。俺が戻ってこないなら、タクシー拾って帰ればいいだろ。ずっと待ってることないだろ。
そこで待ってろ。タクシー呼んでやるから」
次の瞬間、電話の向こうからアリスの不満そうな声が飛んできた。
「早くカバーしてよ、負けちゃう!」
電話は容赦なく切られた。
私は病院の前に立ち尽くしたまま、顔を雨と涙でぐしゃぐしゃに濡らしている。何度拭っても拭ききれない。
雨の中を3キロも走って、ようやく一台のタクシーを拾った。
運転手がティッシュを差し出しながら、心配そうに声をかけてくれた。
「この辺り、最近は女性を狙った事件がよく起きてる。こんな雨の日に、よく一人で走り回れるんだ。彼氏さんは迎えに来てくれないのか?」
その言葉を聞いて、私は今さらながら自分がどれだけ危なかったのかと思い知り、背筋に冷たいものが走った。
確かに最近、病院の近くには柄の悪い連中がうろついている。
そのことを知った廉太は、通販で防犯スプレーを買い、アリスのカバンに入れて持たせていた。
けれど私の分はなかった。
私の目から光が消えたのを見て、廉太は私をぎゅっと抱き寄せた。
「彼氏の俺が守るんだから、そんなもの要らないだろ?」
でも今の私は、防犯スプレーもなければ、守ってくれる人もいない。
家に帰り、玄関を開けた瞬間、廉太がアリスの髪を乾かしてあげているのが目に入った。
しかもアリスが着ているのは、私と廉太のお揃いのパジャマだ。
物音に気づいた廉太は、ドライヤーを止めると、少し険しい顔をした。
「やっと帰ってきたか。俺もアリスも、静恵のことが心配で仕方なかったんだぞ。もう少し遅かったら探しに行ってた」
二人はお揃いのパジャマを着て、風呂まで済ませ、髪も乾かしている。
どう見ても、私を探しに出るつもりには見えない。
目の奥が熱くなり、今さらこみ上げてきた悔しさが、一気に口から溢れた。
「夜中に私が危ない目に遭うかもしれないって、考えたことあるの?廉太の彼女は私なの。アリスじゃなくて……」
廉太の表情が、一瞬だけ固まった。
アリスの顔はみるみる真っ赤になり、彼を突き飛ばすと、振り返りもせず部屋を飛び出していった。
廉太は「ちっ」と舌打ちして後を追おうとしたが、ふいに足を止めた。
「今日はどうしたんだ?そんなに怒って。自分がバカなくせに八つ当たりするな。
明日は俺とアリスが当直だ。オペが入ったら助手に入ってくれ。それで帳消しにしてやるから」
そう言い残すと、彼は振り返りもせず、アリスを追って出ていった。
私は全身ずぶ濡れのまま、その場に立ち尽くしている。ズボンの裾も、足元も、泥だらけだ。
待たせられたのは、いつだって私だ。
「嫌だ」と言うことすら、許されない。
翌朝、私はぼんやりと目を覚ました。
体温を測ると、40度近くある。
意識は熱にうなされるように揺らぎ、まぶたを持ち上げる力さえない。
10回以上電話をかけたのに、廉太もアリスも出なかった。
仕方なく、私は病院の救命救急センターに電話をかけた。
廉太の声が聞こえた瞬間、藁にもすがる思いだ。
「廉太……私、熱が出て……」
「なんだ、お前か」
彼の声色が、途端に変わった。
「俺が電話に出ないからって、病院にまでかけてくるのか?お前も医者だろ。仕事を何だと思ってるんだ?」
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