冷たい指導医の彼氏、別れて後悔してる第1話
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観光地で写真を撮るとき、私・若嶋静恵(わかしま しずえ)は何度も場所を変えながら、一番きれいに写るアングルを探している。
カメラを恋人の加久間廉太(かくま れんた)に向け、大声で何度も呼びかけた。
「廉太!こっち向いて」
けれど、聞こえていないのか、廉太は少し離れたところをじっと見つめている。
そこへ、撮影が下手な親友・西内アリス(にしうち ありす)がスマホを取り出し、廉太に声をかけた。
「廉太!カメラ見て!」
すると廉太はすぐに姿勢を整え、アリスのカメラに向かって、愛おしそうな甘い笑みを浮かべた。
それを見ていた若い夫婦が、アリスのスマホの画面を覗き込み、微笑ましそうに冷やかした。
「わあ、きっと彼氏さんにすごく愛されてるのね。写真の彼、目がキラキラしてるわ!」
アリスの顔は一気に真っ赤になり、廉太は気まずそうに咳払いをした。
私はうつむいてスマホの画面を確認した。
そこに写っているのは、彼の横顔のほんの一部だけ。まるで週刊誌の記者が隠し撮りしたみたいな一枚だ。
物心ついたころからずっと、二人は当たり前のように私を無視し、私には何の考えもないと決めつけていた。
学生のころは、遊びに行く場所をいつも二人が楽しそうにはしゃぎながら決め、私がついてくるのが当然だと思っていた。
進路を決めるときも、二人で医者を目指すことにして、私も当然賛成するだろうと思い込んで、勝手に私の分まで医学部に願書を出していた。
その後、二人は病院で「救命救急センターの名コンビ」と呼ばれるようになったけれど、私はどれだけ必死に頑張っても、フェローの修了が認められなかった。
ふと顔を上げると、二人はもう肩を並べて次の撮影スポットへ向かっている。
きっと、私がついてくるのを当たり前だと思っているのだろう。
けれど私は、二人とは反対の方向へ歩き出した。
ずっとあの二人の後ろをついていくだけの、影のような存在だった。
でも、そんな私にだって、ついていきたくない日くらいある。
* * *
廉太が私の不在に気づいたのは、それから3時間後だ。
送られてきたメッセージの内容は、ひどく冷たい。
【どこほっつき歩いてるんだ?入口の売店で飲み物を買ってきてって言っただろ?また道に迷ったのか?】
用があるときにしか、私の存在を思い出してくれない。
これが何度目なのか、もう覚えていない。
私は返事をせず、そのまま手元の仕事を続けた。
ちょうど病棟の回診から戻ってきた同僚が、私を見て不思議そうに首をかしげた。
「有休をまとめて取って、加久間先生と西内先生と遊びに行ってたんじゃないの?どうしてこんなに早く戻ってきたの?」
カルテを書いていた手が止まった。
廉太とアリスは息の合った連携で難易度の高い救急手術を1件こなせば、それだけで1週間の特別休暇がもらえる。
なのに私は、二人と遊びに行くために、大切な有休を切り崩さなければならない。
心待ちにしていた旅行の間、自分が透明人間になったように感じた。
それからさらに3時間ほど経った頃、アリスが大きなぬいぐるみを抱えて医局までやってきた。
いたずらっぽくウインクして、私に言った。
「若嶋先生、これ、私と加久間先生がカップルのふりをしてゲットした景品なんだよ。二人で30分もハグし合ったんだから、もうくたくた!
でも、大事な親友を喜ばせるためなら、そんなの平気だよ」
さっき、私もあのハグゲームに参加しようと提案した。
けれど廉太は、そっけなく「子どもっぽい」と言っただけだった。
だから私は、それ以上言わなかった。
なのに、アリスが参加したいと言えば、彼はあっさり彼女とカップルのふりをしてやった。
本当のカップルは、彼と私なのに。
胸の奥に何かが詰まっているみたいで、なんとも言えない息苦しさがこみ上げてきた。
私が受け取らずにいると、廉太はしぶしぶぬいぐるみを私の腕に押しつけた。
「さっき何も言わずにいなくなって、西内先生だって若嶋先生のこと心配してたんだぞ。何をそんなに不機嫌そうな顔をしてるんだ?」
その瞬間、周りにいる同僚たちが、一斉に私へ蔑むような視線を向けた。
アリスは振り返って廉太をひと睨みすると、今度は私をなだめるような声をかけた。
「いつも言い方きついんだから、気にしないで。
若嶋先生、写真のこと、まだ気にしてるの?だったら見せてあげる。私のスマホ、加久間先生の変な写真がいっぱいあるんだから!」
仕返しでもするみたいに、彼女はアルバムを開いて見せてきた。
いつもは真面目で堅苦しい男が、彼女のスマホの画面の中では、おどけたりふざけたりしている。
けれど私のスマホのアルバムにある1267枚の写真には、さまざまなアングルから隠し撮りしたかのような彼の姿しかない。
廉太はアリスの肩をぐっと抱き寄せ、脇腹をくすぐった。
「他人に勝手に見せるなって言っただろ。どうなるか思い知らせてやる」
「ははは、ごめんなさいってば!」
私は呆然と立ち尽くしている。まるで本当に、廉太の言う「他人」に過ぎないかのように。
そしてまっすぐ上の階へ上がり、院長室の扉を叩いた。
「院長、海外研修の件、ぜひ行かせていただきます」
院長は嬉しそうに顔を輝かせたが、すぐに心配そうな表情を浮かべた。
「行くと決めてくれたのは嬉しい。でも、君の指導医には相談したのか?」
私の指導医――それが廉太だ。
この病院に入ったばかりのころ、私もアリスも、彼の指導を受けるフェローだった。
けれど、フェローを修了できたのはアリスだけだった。
フェロー期間中、私は一度もミスをせず、さらに3度も命を救う功績を挙げた。それでも廉太は、「それが仕事だろ」と言った。
徹夜でカルテを整理し、丸1日家に帰らなかったときも、「要領が悪いから人一倍頑張るしかない」と言われた。
アリスが一人でてんかん発作の患者を救命したとき、廉太は院長室に何通もの推薦状を送り、アリスが特別に早期修了できるよう取り計らった。
やがて私は、二人に追いつこうとすればするほど、その距離が開いていくのだと、少しずつ気づかされた。
私は首を横に振り、吹っ切れたように笑った。
「相談する必要はありません。これは私が自分で決めたことです」
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