八時間のフライトで恋は終わった第2話
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「これから何か困ったことがあったら、遠慮なく言ってください。俺にできることなら、力になります」
それきり、私から晃成に連絡することはなかった。
それでも晃成は、ときどき贈り物をくれた。
放課後になると迎えに来て、遊園地へ連れていってくれる日もあった。
十月の終わり、晃成は母親と一緒に海外へ移った。
けれど、連絡が途切れることはなかった。
会えなくなったぶん、メッセージを交わす時間は前より増えた。
晃成は向こうの街並みや、少し変わった日常の写真を送ってくれた。
そのたびに、私の生活の中で彼の存在は少しずつ大きくなっていった。
年末、私は家族と揉めて、一人で家を出て、一人暮らしを始めた。
ちょうどその頃、感染症をこじらせ、入院することになった。
冷えた病室のベッドの上で体を丸め、窓の外の街明かりをぼんやり眺めながら、テレビから流れる年越し番組のカウントダウンを聞いていた。
スマホの画面には、晃成からのメッセージがいくつも残っていた。
気づけば、私は彼に一言だけ送っていた。
【晃成がここにいてくれたらな】
送ったところで、私は眠りに落ちた。
目が覚めても、晃成からの返信は来ていなかった。
寂しくなかったと言えば嘘になる。
それでも、一万キロも離れた場所にいる彼が、突然目の前に現れるはずがないことくらい分かっていた。
それからしばらく、晃成からの返信は間が空くようになった。
その不安に押し潰されそうになっていたころ、病室のドアが開いた。
息を切らした晃成が、淡いピンクのカーネーションの花束を抱えて立っていた。
彼は私の頬を両手で包み、笑った。
「莉都、会いに来た。
退院するまで、そばにいるから」
胸の奥でずっと張りつめていたものが、その瞬間、ぷつりと切れた。
私は晃成に抱きつき、子どもみたいに泣いた。
その日から、私たちは恋人になった。
そして、五年にわたる遠距離恋愛が始まった。
その五年間、晃成は月に一度、必ず私に会いに来てくれた。
国をまたいだ、一万キロの距離。
無理しなくていいと私が言うたび、晃成は決まって「俺が莉都に会いたいんだ」と言った。
会いたいのも、一緒にいろいろなことをしたいのも、離れているのがつらいのも、自分のほうだと。
「俺と母さんの前に立って、警察を呼んでくれたときのこと、覚えてる?
あのとき、母さんはひどい言葉を浴びせられて、俺まで一緒になって笑いものにされた。
でも莉都だけは、俺たちを見捨てなかった。
動画がネットに広まったあとも、ずっと俺たちの味方でいてくれた。ひどい書き込みだって、放っておかなかった。
莉都には、ずっと感謝してる。恋人としてだけじゃなくて、俺にとっては恩人でもあるんだ」
晃成は私の手の甲にキスをした。
大切なものに触れるみたいに、そっと。
だから後になって、彼には本当はずっと彼女がいたのだと知ったとき。
私は、一瞬それが現実だとは思えなかった。
……
それは、晃成と付き合い始めて五年目のことだった。
大学の授業や課題に追われる晃成とは、一日中連絡がつかないことも珍しくなかった。
私はいつも、返事を待っているうちに眠ってしまう。
翌朝、トーク画面に残っているのは、たいてい彼からの短い一言だけだった。
【ごめん、授業中】
その短い返事を見た途端、ずっと我慢していたものが、ふっと切れた気がした。
会いに行こう。
昔、彼が私のところへ来てくれたように、今度は私が会いに行けばいい。
晃成には何も言わず、私は航空券を取った。
家を出てから、空港に着くまで三時間かかった。
そこから何度も飛行機を乗り継いだ。
機内で眠っては目を覚まし、昼なのか夜なのかも分からなくなっていった。
道中の移動時間は、実に四十八時間もかかった。
飛行機を降りるころには、頭の奥がずきずきと痛んでいた。
周りには人があふれ、聞き取れない言葉ばかりが耳に入ってくる。
私は翻訳アプリだけを頼りに、どうにか晃成の大学までたどり着いた。
見知らぬキャンパスを、行ったり来たりしながら彼を探した。
けれど、晃成には会えなかった。
代わりに声をかけてきたのは、彼の友人たちだった。
彼らは私を見て、晃成に何の用かと尋ねた。
私は、晃成の彼女です、と答えた。
彼らは一瞬、驚いたように私を見た。
すぐに互いの顔を見合わせ、何か言いにくそうに口をつぐむ。
その視線に、わずかな同情のようなものが混じっている気がした。
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