八時間のフライトで恋は終わった第3話
この話は約1564字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
結局、私は晃成に会えなかった。
彼の友人たちに別れを告げようとした、そのときだった。
晃成から電話がかかってきた。
「なんで来たんだよ!」
電話越しの声は、いつもの晃成とはまるで違っていた。
焦りと苛立ちを、そのままぶつけてくるような声だった。
私は一瞬、何を言われたのか分からなかった。
胸いっぱいに抱えてきた喜びも期待も、急に行き場をなくした。
喉の奥が痛い。
「……会いたかったの」
電話の向こうで、晃成が黙った。
しばらくして、さっきの剣幕が嘘みたいに声を落とした。
「莉都、悪い。俺、今そっちにいないんだ。
先に帰ってくれ。落ち着いたら、俺から会いに行くから。
頼む。今は言うこと聞いて」
なぜだろう。胸が苦しくなった。
どうして最初に怒鳴ったのか、私は聞けなかった。
ただ、涙をこらえながら言った。
「晃成、今どこにいるの?
私が行くから。お願い、会わせて。今すぐ」
返事が途切れた。長い沈黙のあと、晃成は低く言った。
「……本気か」
私がうなずくように答えると、晃成は結局、航空券を手配してくれた。
「着いたら連絡して。空港まで行く」
そこで通話は切れた。
スマホを握ったまま画面を見ると、晃成とのメッセージ画面が開いたままだった。
直近のやり取りは一週間前。
午前三時過ぎに、晃成から届いたものだった。
【今終わった。疲れた……莉都に会いたい。抱きしめてキスしたい……】
自分がどうやって飛行機に乗ったのか、よく覚えていない。
ここから晃成のいる街までは、飛行機で八時間かかる。
その八時間、空の上にいた私は何も知らなかった。
機内では確認できなかったメッセージ画面に、晃成からの長い文章が残っていた。
そこには、ずっと私を騙していたこと、自分には前から付き合っている彼女がいることが書かれていた。
相手の家も裕福で、双方の親への挨拶も済ませている。
卒業したら、その人と婚約する約束になっているのだという。
彼は何度も謝っていた。
自分は最低な男だと。
私を傷つけ、裏切ったのだと。
そして最後に、こう続いていた。
【お前も、彼女も悪くない。全部俺のせいだ。傷つけて、本当にごめん】
【だから頼む。俺の彼女には会いに行かないでくれ。このことも言わないでほしい。彼女を傷つけたくない】
空港の人波の中で、スマホを握る手の震えが止まらなかった。
「俺の彼女」という文字だけが、何度も目に入った。
涙で息が詰まりそうだった。
彼女が、晃成の恋人。
だったら、私は?
五年も一緒にいた。その五年が、たった数行のメッセージで崩れていく。
私は空港の片隅に座り込んだまま、外が暗くなるまで動けなかった。
涙が出なくなってから、ようやく晃成にメッセージを送った。
【今、時間ある?少し話したい】
返事が来たのは、しばらくしてからだった。
【ごめん、もう少し遅くなる。彼女が生理でつらそうだから、そばにいないと】
胸のあたりが、ぎゅっと縮むようだった。
もう泣くことすらできなかった。
私は震える指で、どうにか「わかった」と返した。
送信した瞬間、最後に残っていたものまで、静かに崩れていく気がした。
……
その後、私たちはレストランで会った。
晃成は、昼間メッセージで送ってきた内容を、もう一度口にした。
私は泣くことしかできなかった。涙ながらに彼を問い詰めた。
それが煩わしかったのか、晃成はとうとう苛立ちを隠さなくなった。
「俺は、そこまで深く考えてなかったんだよ。お前がここまで本気になるなんて思わなかった。
あのとき俺を助けてくれたから、もっとしっかりした子だと思ってた。
そんなに誰かに愛されたいわけ?」
その一言で、途切れ途切れだった私の声が止まった。
しばらく、ただ晃成を見ていた。気づいたときには、乾いた音が響いていた。
私の手のひらが、彼の頬を打っていた。
横を向いた晃成を見ながら、私は声を絞り出した。
「最低。あの時、助けるんじゃなかった」
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