俺と息子を捨てた元妻の報い第2話
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昂輝は、夕依へちらりと視線を向ける。どうやら、夕依はまだ何も気づいていない。張り詰めていた気持ちが、ほんの少しだけ緩んだ。
だが再び陽斗へ目を向けたとき、その顔に残っていたのは露骨な苛立ちだけだ。
「ろくでもない父親に、ここへ来いって言われたのか?
聞いてないのか?ここはもうお前の家じゃない。さっさと失せろ、クソガキ」
むき出しの悪意をぶつけられ、陽斗はびくりと肩を震わせた。みるみる目元が赤くなる。
「違う!パパはろくでもない人なんかじゃない!この嘘つき!ママに会わせて!」
怒りに満ちた目で昂輝を睨みつける様子は、まるで毛を逆立てて人を威嚇する子猫のようだ。
昂輝は鼻で笑う。そして誰も見ていないのを確かめると、陽斗を乱暴に突き飛ばした。
無防備だった陽斗は、そのまま額を鉄製の門へ強くぶつける。鈍い音が響いた。
「今の、何?」
夕依が胸騒ぎを覚えたように声を上げる。
昂輝は慌てて陽斗の口を押さえ、何事もなかったように答える。
「何でもない、野良猫だよ。寒いから、先に莉緒を連れて中へ入ってて」
夕依の足音が遠ざかるのを確認すると、昂輝は陽斗の腕を強くつかんだ。鋭い目を向ける。
「やっぱりお前は、父親そっくりだな。俺の邪魔ばかりしやがって」
陽斗は必死にもがき続け、額から流れた血と涙が混じり合い、頬を伝っていく。
「本当に気味悪い」
昂輝は吐き捨てるように言うと、陽斗を雪の上へ突き飛ばした。
陽斗はよろよろと立ち上がりながら、叫んだ。
「悪いのはそっちだ!ママに会いたい!ママに会わせてよ!」
昂輝はせせら笑い、オーダーメイドの革靴の先で、門の下にあるペット用の小さな出入り口を小突いた。その目には嗜虐的な色が浮かんでいる。
「ここをくぐって来られたら、ママに会わせてやるよ。どうだ?」
俺はすぐそばで昂輝を睨みつける。怒りのあまり、目から血が滲み出そうだ。
よくも……よくも俺の息子を、侮辱したな!
胸をえぐるような痛みと怒りで、理性が吹き飛びそうになる。
俺は陽斗に向かって必死に手を振り、断らせようとする。
パパはもう死んだんだ。だから、パパのために、そこまでしなくていい。
陽斗、帰れ。家に帰ってくれ。
だが陽斗は顔を上げ、その視線が俺の体をすり抜けて、遠くに見える賑やかな屋敷へと向かった。
「約束、守る?」
昂輝は一瞬きょとんとしたあと、腹を抱えて笑い出した。
「ああ、もちろんだ」
陽斗は唇を強く噛みしめ、震えながら身をかがめると、ぎこちない動きでその小さな出入り口をくぐり始める。
くぐりながら、自分自身に言い聞かせるように呟く。
「陽斗は大丈夫……泣いちゃダメだ……
パパを起こしてあげるんだ」
それでも、涙は言うことを聞かず、次々とこぼれ落ち、服の襟元を濡らしていく。
昂輝はスマホを取り出し、その姿を楽しそうに撮り始めた。その目には、興奮と優越感がありありと浮かんでいる。
「いい子だなぁ。さすがは雅彦のガキだ。まるで犬みたい。
ほら、吠えてみろよ。もっと楽しませてくれ」
昂輝が上機嫌でそんな言葉を口にしていたとき、突然背後から感情の読めない女の声が響いた。
「何をしているの?」
昂輝の顔から血の気が引いた。慌ててスマホを地面へ放り出すと、陽斗を立ち上がらせ、服についた雪や汚れを払う。
「いや、陽斗が君に会いに来たから、一緒に遊んであげてたんだ」
「そう?」
夕依は怪しむように眉をひそめたが、昂輝はすぐに話をそらす。
「外は寒いんだ。早く陽斗を中に入れてあげよう。風邪を引いたら大変だろ」
昂輝は眉をひそめ、いかにも心配そうな顔を作る。
陽斗も顔を上げる。額に残った傷を夕依に見せ、ほんの少しでも心配してくれることを期待している。
そして昔のように、自分を抱きしめて慰めてくれることを願って……
だが夕依は、陽斗の額の傷へ目を向けると、わずかに眉をひそめ、怒りを含んだ声で言う。
「雅彦は父親としてどういうつもりなの?前に陽斗を利用して私の気を引こうとしたことはまだしも、今度はこんな芝居までさせるなんて……
こんなことをすれば、私が心配するとでも思ってるの?ずいぶん甘く見られたものね」
それから再び昂輝へと視線を戻し、今度は昂輝をいたわるような声で言う。
「昂輝は優しすぎるのよ。だからあいつに何度も利用されるの」
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