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俺と息子を捨てた元妻の報い第1話

この話は約1989字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

元妻の初恋相手のための「生きた血液バンク」として血を抜かれ続けたあげく、俺・古賀雅彦(こが まさひこ)は、億万長者である元妻・林夕依(はやし ゆい)があてがってくれたボロアパートで病に倒れ、そのまま息を引き取った。

今日で、俺が死んでから3日目になる。6歳の息子・古賀陽斗(こが はると)が、ようやく異変に気づいた。

おもちゃで遊んでいて指を切っても、俺はあやさない。

クッキーの袋を開け、俺の口に押し込もうとしても、俺は止めない。

俺の腕の中に潜り込み、服をぎゅっとつかんで小さな声で「パパ」と呼んでも、返事をすることはない。

どうしていいかわからなくなった陽斗は、俺のスマホを見つけ出し、夕依に電話をかける。

「ママ、パパがずっと起きないんだ……」

だが夕依は、初恋相手の斉藤昂輝(さいとう こうき)と食卓を囲んでいる写真を送りつけてくると、冷たく言い放った。

「ただ寝てるだけよ。死んだわけじゃあるまいし。今日は大晦日よ。こっちは忙しいの。

あのろくでもない男に伝えておきなさい。自分の間違いを認める気になったら、そのときまた連絡してきなさいってね」

電話が一方的に切れ、陽斗はしばらくの間、呆然と立ち尽くしていた。

やがて、ゴミ箱に捨てられていた最後のクッキーを拾い上げる。それを半分に割ると、俺の口元へそっと差し出す。

「パパ、僕たちも、ごはん食べよう」

* * *

ベッドの上の俺は、相変わらず何の反応も示さないが、陽斗はもうそれに慣れてしまっていた。

クッキーを大切そうに枕元へ置くと、自分の分をむさぼるように口へ放り込む。

お腹をさすって、まだ足りないらしい。

すると陽斗は、俺のために残しておいた半分のクッキーへちらりと目を向ける。それから慣れた様子で台所へ向かい、コップに水道水をなみなみと注いで一気に飲み干した。

その光景を目の当たりにして、宙に浮かぶ俺の胸がずきりと痛んだ。

これが、少し食事が遅くなっただけで「お腹すいた」と騒いでいた、あの陽斗なのか。

俺がいなくなって、まだ3日しか経っていないのに、どうしてこんなに痩せ我慢する子になってしまったんだ。

スマホの画面が突然明るくなり、待ち受けの家族写真が浮かび上がる。

暖かな日差しが差し込む部屋で、まだ寝ぼけている俺と陽斗を、夕依が両腕で抱き寄せ、3人そろってカメラに向かって笑っている。

親子3人の顔には、同じような屈託のない笑みが浮かんでいる。

あの日、俺がまだ寝ていると、夕依は陽斗を連れて、足音を忍ばせながら寝室へ入ってきた。そして、声を潜めて話しかけた。

「陽斗、パパがまた朝寝坊してるよ。一緒に起こしちゃおっか?」

陽斗はこくりとうなずき、いたずらを思いついた子猫のように笑った。

「うん!」

夕依は得意げに眉を上げると、背中に隠していた羽根ペンを取り出し、そっと俺の鼻先へ近づけた。

鼻先をくすぐられ続け、とうとう俺は我慢できずにくしゃみをした。勢いよく起き上がり、腹を立てたふりをしながら枕をつかんだ。

「夕依!」

すると彼女は助けを求めるように、陽斗を自分の前に引き寄せる。

「陽斗、パパを止めて!」

朝から大騒ぎだった。

スマホの待ち受けに映る羽根ペンを見て、陽斗は何かを思い出したらしく目を輝かせた。

「ママ、前はこうやって寝坊したパパを起こしてたんだ……」

そう言うとスマホを置き、陽斗はばたばたとベッドのそばへ駆け寄る。

「陽斗、パパの起こし方、わかったよ。前のおうちに行って、あの羽根を持ってくるね」

自信満々にそう告げると、そのまま玄関へ向かっていく。俺は思わず固まった。慌てて床に置かれた靴を拾い、履かせてやろうと手を伸ばす。

しかし、俺の手は虚しく空を切り、何も掴むことはできない。

そうだった。俺は死んでいる。

陽斗を守ってやることすら、もうできない。

家を出た陽斗の後を、俺はついていく。向かった先は、夕依の実家だ。

今日は大晦日だ。街には年越しを祝う賑やかな空気が漂っている。

家族団らんの笑い声が家々から漏れ聞こえ、その賑わいが今の俺には妙に胸を締めつけた。

ひときわ大きな屋敷の庭で、夕依が、6歳ほどの女の子と一緒に雪合戦をしている。

夕依は楽しげに笑いながら、時折、優しい声で話しかける。

「ゆっくりね。転ばないように気をつけて」

少し離れた場所に立っている昂輝が、満ち足りたように笑いながら二人を見守っている。

絵に描いたような、幸せに満ちた家族だ。

門の隙間からその光景を覗き見た陽斗は、何度か瞬きをした。そして、少しだけ寂しそうに目を伏せる。

以前は、大晦日の夜になると、夕依もよく陽斗と一緒に雪遊びをしていた。

陽斗は手の甲で涙をぬぐうと、背伸びをしてインターホンを押した。

ほどなくして、誰かが門の向こうから姿を現す。だが、それは夕依ではなく、昂輝だ。

「どうしてお前がここにいる?」

陽斗を見た瞬間、昂輝の顔から笑みが消え、代わりに強い警戒心があらわになった。

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