俺と息子を捨てた元妻の報い第3話
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夕依の言葉を聞き、俺も陽斗も言葉を失った。
特に陽斗は、何か言おうとして口を開くものの、涙だけがとめどなくこぼれていく。
「ママ……」
その一言に、夕依の強張っていた表情がわずかに緩む。だが、その瞳に宿った冷たさは、外の吹雪よりも身にしみた。
「それで?今度は何が目的なの?
お金?それとも家でも欲しいわけ?」
陽斗の小さな手は、いつの間にか強く握りしめられていた。それでも、反論することはできない。
以前、陽斗は夕依に、昂輝にひどいことをされたと訴えたことがある。
だが昂輝が少し言い訳をしただけで、夕依は俺が昂輝に嫉妬し、陽斗に嘘をつかせたのだと信じ込んだ。
その結果、俺は地下室に1週間閉じ込められた。
陽斗もまた、その1週間、悪夢にうなされ続けた。
そのときのことを思い出したのか、陽斗はぶるりと身を震わせる。そして俯いたまま、小さな声で言う。
「パパがどうしても起きないんだ。だから、あの羽根、僕にくれないかな?」
夕依の表情が変わる。胸騒ぎを覚えたように、思わず問い返す。
「起きないってどういうこと?雅彦は400mLしか血を抜かれてないはずじゃ……」
「夕依!」
昂輝が慌ててその言葉を遮った。
夕依は振り返り、不思議そうに眉をひそめる。
「何?」
疑いの視線を向けられ、昂輝の体が一瞬こわばった。そして不自然なほど慌てて話題を変える。
「今日は大晦日だろ。陽斗が帰るのが遅くなったら、雅彦さんも心配する。
羽根くらい、渡してやればいい。
これ以上、あっちの年越しを邪魔することもないだろ」
案の定、夕依はあっさりと注意を逸らされ、表情を少し和らげた。
「昂輝は相変わらず優しいのね。わかったわ。陽斗、ついてきなさい」
一行が屋敷の中に入ると、明るい照明の下で、陽斗の額に残る傷がより一層痛々しく目立って見える。
そこへ、昂輝の娘・斉藤莉緒(さいとう りお)が近づいてきて、汚れた服の陽斗を上から下まで眺め、不思議そうに首をかしげる。
「この子、だれ?迷子なの?すっごく汚い」
無邪気な一言に、陽斗の顔が一気に赤くなる。
助けを求めるように夕依を見る。何か言ってくれるのではないかと期待した。しかし、その視線に触れた夕依の表情は、なぜかさらに冷たくなった。
陽斗を一瞥し、吐き捨てるように言う。
「雅彦にそうやってかわいそうなふりをするよう教えられたの?
わざとみじめな格好をすれば、私が心配するとでも思ったの?
くだらない」
夕依の言葉を聞くうちに、陽斗の顔から赤みが消えていく。痛ましいほどの蒼白さと脆さだけが残る。
……ママはもう、自分のことなんて好きじゃないんだ。そう思ったのだろう。
陽斗が涙を拭い、再び顔を上げたとき、夕依はすでに2階へ上がっていた。
その場に残った昂輝は、得意げな笑みを浮かべ、陽斗を見下ろしている。
「かわいそうに。ママにまで見捨てられたんだな。
いっそ俺のことをパパって呼んでみるか?そうしたら、特別にここへ置いてやってもいいぞ。ペットの犬としてな」
「嫌だ!」
陽斗は小さな手をぎゅっと握りしめ、目には涙が浮かび、怒りのあまり体まで震えている。
「お前なんか、パパじゃない!僕のパパは一人だけだ!古賀雅彦っていう、僕のパパだけだ!
調子に乗るなよ!パパが起きたら、絶対に僕の仇を取ってくれるんだからな!」
歯を食いしばりながら放ったその言葉には、迷いなどなかった。
だが、その言葉に俺の胸は張り裂けそうになる。
もし陽斗が、俺はもう二度と目を覚まさないのだと知ったら、どれほど傷つくだろう?
これから先、一人でどうやって生きていけばいい?
陽斗はまだ、6歳なんだ。
俺の視界は涙でぼやけていく。その一方で、昂輝は完全に逆上していた。
ちょうどその時、2階から夕依が下りてくるのを見ると、何かを思いついたように目を細める。そして、さりげなく自分のポケットをまさぐり始める。
「俺のスマホは?スマホがない!」
昂輝は焦った様子で全身をまさぐり、やがて視線を陽斗へ向ける。そして、にやりと笑った。
「陽斗……もしかして、俺のスマホを盗んだのか?」
陽斗はぎょっとして、すぐに首を振った。
「違う!盗んでない!スマホなら、さっき……」
パァンッ!
言葉の途中で、乾いた音が響く。
夕依は片手に羽根ペンを握り、もう片方の手で、ビンタで赤く腫れ上がった陽斗の顔を指さす。その目には、失望の色が浮かんでいる。
「やっぱり、ろくなつもりで戻ってきたんじゃなかったのね!
前に、父親にそそのかされて昂輝を陥れようとしたことは、百歩譲ったとしても、今度は人の物を盗むなんて!どうして、こんな子になってしまったの?」
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