余命一か月、娘のために元夫へ戻った第2話
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私は圭吾を静かに見た。
「私はただ、あなたと彼女に幸せになってほしいだけ。昔のことを責めてもいないわ。深く考えすぎよ」
圭吾は大きく息を吐き、疲れ切った目で私を見つめた。
理玖が近づき、私の手を取った。
「ママ、戻ってきたんだから、パパと仲よくしてよ。前は芹香お姉さんが好きだって言ったけど、ママのことだって好きだよ。だからママも、もうこんなことするのやめようよ」
不意に、みぞおちを錐でえぐられたような痛みが走った。
手が震えるほどの激痛だった。私は背を向けて部屋へ入り、すぐに鍵をかけると、鎮痛薬を2錠取り出して飲み込んだ。
このところ、痛みが起きる間隔がどんどん短くなっている。
残された時間は、もう2週間もない。
激しい音を立てて、ドアが蹴り開けられた。
私は慌てて薬のボトルを枕の下へ隠した。
入ってきた圭吾は、私が何かを隠すような動きをしたことに気づいたらしい。一瞬、疑うような目を向けたが、怒りのほうが勝った。
彼は避妊具の箱をベッドへ放り投げ、片手で私を押さえつけると、もう片方の手で乱暴に服を引き裂こうとした。
「わざと俺を挑発してるんだろ?どうすれば、いつものお前に戻るのか確かめてやる」
何をされても、私は抵抗しなかった。無表情のままだった。
やがて耐えられなくなったのは、圭吾のほうだった。
「分かった!そんなに芹香をここへ呼びたいなら、今すぐ呼んでやる!」
私は静かに答えた。
「言ったでしょう。あなたが幸せなら、それでいいの」
圭吾は歯を食いしばって何度かうなずき、服をつかむと部屋を飛び出していった。
訳が分からないという顔で、理玖が近づいてきた。
「ママ、いったい何がしたいの?」
私は答えず、理玖を廊下へ出してドアに鍵をかけた。
それから、わずか2、3日後。
圭吾は大きな黒いSUVで、芹香とその娘を連れてきた。いくつものスーツケースを下ろし、二人を屋敷へ迎え入れた。
2階の部屋にいた私は、階下から聞こえる荷運びの音を聞きながら、遠い日のことを思い出していた。
あの日も、今日のような曇り空だった。
私は一人で妊婦健診を受け、予定より早く帰宅した。付き添ってくれる夫がいる妊婦を見かけて、うらやましく思いながら玄関を開けた。
リビングのソファでは、裸の二人が夢中で体を重ねていた。
私は駆け寄り、芹香にかかっていたブランケットを引き剥がした。
振り上げた手は、圭吾につかまれた。
「恥ずかしくないのか?こんな弱い立場の女を責め立てて。誰にも芹香を傷つけさせない」
私は半狂乱になり、持っていた母子健康手帳のケースを何度も二人に叩きつけた。
硬い角で頬が切れても、圭吾は泣いている芹香を腕の中にかばい続けた。
力尽きた私は、その場にへたり込み、肩で息をした。涙で顔はぐしゃぐしゃだった。
二人が目の前で慌ただしく服を着る様子を、私はただ見つめていた。
そこへ、当時5歳だった理玖が入ってきた。
芹香が涙を拭っているのを見るなり、理玖は彼女に駆け寄った。
「芹香お姉さん、ママに怒られたの?ママは怖いよね。泣かないで。僕が涙を拭いてあげる。僕もママなんて嫌い。外へ遊びに行こう。もうママには怒られないようにするから」
下腹部が繰り返し硬く張り、息ができなくなった。腹を押さえたまま、私は仰向けに倒れた。
耳に届いたのは、圭吾の冷たい声だった。
「芝居はやめろ。腹の子を持ち出して、俺を思いどおりにしようとするのはもうたくさんだ。妊娠するのは、お前だけじゃない。大げさなんだよ」
脚の間を生温かいものが伝い、引き裂かれるような痛みが全身を貫いた。
「痛い……お願い……」
もう声を出す力さえ残っていなかった。
それでも圭吾は芹香を抱き寄せ、そのまま部屋を出ていった。
「芹香、怖がらなくていい」
意識が遠のくなか、理玖の泣き叫ぶ声だけが聞こえた。
「血が……こんなに血が出てる。ママ、どうしたの?ねえ、目を開けてよ!」
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