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余命一か月、娘のために元夫へ戻った第3話

この話は約1834字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

目を覚ますと、病室の外から責めるような声が聞こえてきた。

「おとなしく榊原家の奥様をしていればよかったのに。離婚して苦労している芹香と、わざわざ張り合う必要なんてあったの?

あれだけ出血して、子宮まで摘出したんでしょう。もう榊原家の跡継ぎを産むこともできないじゃない。私は最初から、あの女は気に入らないって言ってたのよ。結婚するなら芹香にしなさいって」

圭吾が母親の言葉を遮った。

「もういい、母さん。ここは病院だ。今日は帰ってくれ」

「分かったわ。夜、家に着く頃に連絡しなさい。芹香を行かせるから、身の回りのことをしてもらいなさい」

そこで初めて分かった。

私が家を空けるたび、圭吾の母は気に入っている芹香を圭吾のもとへ送り込んでいた。芹香も、私が出かける時間を見計らって訪ねていたのだ。

私は4年ものあいだ、何も知らずにいた。

絶望したままベッドに横たわり、圭吾が病室へ入ってくると、私は離婚を切り出した。

「外で話していたことは、全部聞いた。ほかには何もいらない。二人の子どもだけ、私に連れていかせて」

圭吾は新生児用のコットに寝かされた赤ん坊を見たあと、その場に膝をついた。

「澄花、離婚なんて言わないでくれ。俺にはお前が必要なんだ。結婚する前から、母さんが芹香と一緒になれって言ってたのは、お前も知ってるだろ。俺はお前としか結婚する気はなかった。

今になって母さんが、芹香を家に置いて面倒を見ろって言い出したんだ。断ったら死んでやるって騒ぐし、年老いた母親を見捨てることもできなかった。俺だって、どうすればいいか分からなかったんだ。一度だけ、許してくれないか?」

涙があふれ、枕を濡らした。

「お義母さんがそんなに芹香を気に入っているなら、あなたは二人と暮らせばいい。離婚して。私は子どもたちだけ連れていく」

そばにいた理玖は、圭吾の後ろへ隠れた。私はその手を取ろうとした。

子どもたちだけが、私に残された希望だった。

だが、力の入らない手を伸ばすと、理玖は身を引いた。

「ママ、またパパを困らせてる。何も悪いことなんてしてないのに、どうして離婚するの?芹香お姉さんは優しいし、おばあちゃんも、パパも、僕も好きだよ。

芹香お姉さんを嫌ってるの、ママだけじゃないか。ママなんて大嫌い!毎日怒って、ピアノを弾け、絵を描けって言うし、芹香お姉さんまでいじめる。僕はママとは行かない。パパとおばあちゃんと、芹香お姉さんと暮らす」

圭吾は形ばかり理玖をたしなめ、黙るよう目で合図した。

その瞬間、心の中で何かが死んだ。絶望する力さえなくなり、どんな言葉も意味を失った。

私はそれきり、一言も話さなかった。

退院すると、一人で花音を抱いて家を出た。

お金がなく、借りられたのは日当たりの悪い古いワンルームだけだった。

幼い花音を抱えたままでは、働き口もなかなか見つからなかった。

ようやく小さな食堂の店主が事情をくみ、店の奥に花音を寝かせる場所を用意して、皿洗いとして雇ってくれた。

給料は家賃と生活費でほとんど消えた。自分の食事を切り詰めても、花音のミルクやおむつは買わなければならなかった。

胃がんになったのも、あの頃の暮らしが少なからず影響していたのかもしれない。

それでも花音は聞き分けがよく、3歳になったばかりなのに、いつも私を気遣ってくれた。

もう二度と、この子にあんな苦労はさせたくなかった。

……

記憶を断ち切ったのは、ドアの向こうから聞こえてきた芹香の声だった。

「澄花さん、圭吾さんが迎えに来てくれたの。今日から一緒に暮らすんだから、仲よくしましょうね」

勝ち誇ったような笑みを浮かべている。

「そう。ようこそ、芹香さん。どの部屋を使うの?すぐに片づけるわ」

「その必要はない」

背後から、圭吾の冷たい声がした。

「芹香は体が弱い。この部屋がいちばん日当たりがいいから、ここを使わせる。澄花は、使用人用の部屋へ移れ」

「分かった。あなたの言うとおりにする」

私は従順に答えた。不満など少しもないように。

芹香の嘲るような笑みには気づかないふりをして、荷物をまとめ始めた。

その拍子に、鎮痛薬のボトルが床へ転がった。

圭吾が拾おうとかがみ込む。

「何の薬だ?誰が飲んでる?」

止める間もなく、私は答えた。

「花音のビタミン剤よ」

芹香は甘えた声で笑い、圭吾を部屋の外へ押し出した。

「女同士で片づけるから、圭吾さんは外にいて。私が澄花さんを手伝うわ」

私はその隙に、急いでボトルを拾い上げた。

圭吾は腑に落ちない顔をしていたが、そのまま部屋を出ていった。

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