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余命一か月、娘のために元夫へ戻った第1話

この話は約2241字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

二人目を妊娠して7か月目。私――高梨澄花(たかなし すみか)は、夫の榊原圭吾(さかきばら けいご)が幼なじみの倉田芹香(くらた せりか)と、リビングのソファで裸のまま絡み合っているところを目撃した。

早産を経て、私は迷わず離婚した。

日当たりの悪い古いワンルームを借り、飲食店で皿を洗いながら、娘の花音(かのん)を3歳まで育てた。

末期の胃がんだと告げられた日、圭吾はまた家の前で待ち伏せし、戻ってきてほしいと懇願した。

「理玖が、ママに会いたいって泣いてる。これだけ頼んでるんだ。もう一度、俺と一緒に暮らしてくれ」

余命はあと1か月。そう医師に告げられていた私は、すぐに荷物をまとめ、圭吾のもとへ戻った。

私が死んだあとも、花音が生きていけるようにしておかなければならなかったから。

* * *

再婚の手続きを終え、私は再び榊原家の屋敷に移り住んだ。

今度こそ、圭吾が望んでいた妻になった。彼が何をしようと、口を挟まない妻に。

芹香から電話がかかってきても、聞こえないふりをして席を外し、二人きりで話せるようにした。

息子の理玖(りく)がピアノの練習をさぼって遊びに出ても、見て見ぬふりをした。

外で喧嘩をして服を破り、顔じゅうにあざを作って帰ってきたときも、自分で洗ってくるよう静かに言っただけだった。

圭吾は焦った様子で、私のあとを追ってきた。

「あれ以来、芹香とはほとんど口もきいてない。本当にもう終わってる。さっきの電話だって、母さんが午後に作ったシチューを、あいつが代わりに届けるって話だった。ちゃんと断った。LINEも削除した。まだ信じられないなら、見ればいい」

圭吾は無理やりスマホを押しつけてきた。

「大丈夫。信じてる。私のことは気にせず、好きにして。ただ、花音のことだけは気にかけてあげて」

感情を込めずに答えると、圭吾は一瞬、言葉を失った。

「好きにしろって……お前がそんな態度で、俺が楽しく暮らせると思うのか?戻ってきてからずっと冷たいままだ。これで楽しく暮らせるわけないだろ」

「私は前からこうだったじゃない。考えすぎよ」

その瞬間、圭吾は癇癪を起こしたように、いきなりスマホを床へ叩きつけた。

「3年だぞ。やっと戻ってきたのに、まだ俺を苦しめるつもりか?」

私が答えずにいると、理玖も破れた袖をつまみながら近づいてきた。

「ママ、僕、翔太に殴られたんだよ。翔太のお母さんたちに文句を言いに行かないの?

もう前みたいに芹香お姉さんにばっかり甘えたりしないから。だから、そんなふうにしないでよ」

……

私はただ、淡々と言った。

「お風呂に入ってきなさい」

圭吾が勢いよくソファから立ち上がった。

「いったい、いつまでこんな真似を続けるんだ?」

こんな真似?

以前、私が泣いて怒れば、父子そろって私を頭のおかしい女だと言った。

何も言わなくなったら、今度はそれが気に入らないらしい。

「何もしてないわ。みんな、好きに楽しく暮らせばいいでしょう?」

「そうかよ。分かった。もういい!」

圭吾はすっかり力が抜けたように肩を落とし、寝室へ戻っていった。

圭吾は以前から、芹香はかわいそうな女なんだと繰り返していた。

「男を見る目がなくて、結婚してすぐ離婚した。今は女手一つで娘を育ててるんだ。子どもの頃から一緒だったから、泣いてるところを見ると放っておけない」

翌朝、私は芹香に連絡した。

いずれ彼女がこの家の妻になるのなら、花音のことを大切にしてもらわなければならない。

二人の仲を取り持ってから、娘を託すつもりだった。

「あなたから連絡してくるなんて、驚いた」

芹香は警戒していたが、圭吾に会えると分かると、すぐにやって来た。

私は彼女の手を取り、諭すように言った。

「今までは私が悪かった。あなたと圭吾が思い合っているなら、邪魔なんてするべきじゃなかったのよ」

芹香は目を丸くした。

「花音は素直で手のかからない子よ。あの子に優しくしてくれれば、それでいいから……」

ちょうどそのとき、圭吾が理玖を連れて帰ってきた。

ドアを開け、芹香の姿を見た途端、圭吾は表情をこわばらせ、慌てて弁解した。

「澄花、信じてくれ。俺が呼んだんじゃない。本当に、もう連絡は取ってない」

よそよそしい口調を向けられた芹香は、傷ついたような顔をした。

「圭吾さん、澄花さんに呼ばれて来たの」

私は芹香の手の甲を軽くたたいた。

「そう。私が呼んだのよ」

圭吾は芹香の腕をつかんで立たせると、そのまま玄関の外へ押し出した。

「悪いけど、タクシーで帰ってくれ」

ドアを閉めた圭吾は深く息を吸い、険しい顔で私の前に立った。

「どういうつもりだ?澄花、いつまで俺を試す気だ?どうして、そこまで俺を苦しめたいんだよ」

また「苦しめる」なのか。

以前は会わせないことが彼を苦しめ、今は仲を取り持つことが彼を苦しめるらしい。

私は何も分からないふりをして、平然と答えた。

「考えすぎよ。あなたも、お義母さんも、理玖も、芹香が好きなんでしょう?前から彼女と一緒に暮らしたがっていたじゃない。あの頃は、私が聞き分けのないことを言って邪魔をした。もっとみんなの気持ちを考えるべきだったわ」

私は用意しておいた避妊具の箱を、圭吾の手に押し込んだ。

「準備しておいたから。彼女を悲しませないで。早く追いかけてあげて」

圭吾は箱をテーブルに叩きつけ、私の肩をつかんだ。

「澄花、何度説明すれば分かる?お前が出ていって、俺はようやく自分の間違いに気づいた。どうして過去を終わらせてくれないんだ?もう前を向こう。いつまでも昔のことに縛られるのはやめてくれ」

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