交際6年、最初から私が「浮気相手」だったなんて第2話
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颯哉が眉をひそめた。
「朝、いったい何のつもりだ」
私はご祝儀袋を取り出し、赤ん坊のそばにそっと置いた。
「長年の同級生でしょ。子供が生まれたんだから、お祝いくらいするのが当然じゃない」
次の瞬間、私のメールに秘密保持契約が届いた。
内容はこうだ。もし私と颯哉の関係が陽菜に知られたら、母の治療にあたっている医療チームを解散させる、と。
さらに背筋が凍ったのは、母の名前がすでに署名欄に記されていたことだった。
母は肝癌が再発し、癌細胞は急速に広がっていて、医師たちもお手上げの状態だった。
その時、颯哉が大学院時代の先輩を紹介してくれたのだ。難病を専門に扱うチームだと聞いていた。
その先輩の力を借りて、ようやく母の容体は安定していた。
まさか、颯哉に母を人質に取られるとは思ってもみなかった。
陽菜が軽く颯哉を睨みつけた。
「なんでそんな怖い顔するの。同級生さんだって、善意でやってくれたのに」
彼女はベルベットの小箱を取り出した。中には、ハイブランドのブレスレットが入っていた。
「颯哉の昔のお友達なんでしょ。これ、よかったら受け取ってください」
隣で玲子が口を挟んだ。
「もらっときなよ。こんなの、陽菜には山ほど持ってるんだから」
陽菜がにっこりと笑った。
「そうそう、遠慮しないで。うちの旦那ったら、しょっちゅうブランド品買ってくれるの。
時々、セットで買っちゃうこともあって。ほんと、困ってたわ」
胸の奥に、じっくりと苦いものが広がった。
颯哉は、私と付き合っている間、ずっと貧乏なふりをしていた。
以前、一緒に買い物へ行ったとき、私が気に入ったバッグがあった。颯哉は買ってくれようとした。
でも私は、家を買うための出費を考えて、自分からメルカリで中古を探そうと言った。
彼が「上司に歩合給をカットされた」とこぼしていたから、私はそれを真に受けていたのだ。
親友たちの顔をぐるりと見回すと、皆それぞれに言い訳をつけて、次々とこの場を離れていった。
颯哉が結婚したことだけじゃない。彼が貧乏なふりをしていたことまで、皆、口を揃えて私に黙っていたのだ。
私の必死な姿を見て、面と向かっては同情するふりをしながら、陰でどんな言葉で私の愚かさを笑っていたのか、想像するだけで胸が痛んだ。
ブレスレットを受け取り、私はぼんやりとした足取りで病院を後にした。
ホテルに戻ってようやく、涙が堪えきれずにこぼれ落ちた。
颯哉と付き合っていた頃、私たちは友人たちから「苦労人同士のカップル」と揶揄われていた。
私はアルバイトで学費を稼ぎながら、母の高額な医療費まで背負っていた。
颯哉は、私よりもっと苦しい状況で、一円だって無駄にできない生活を送っていた。
二人で頑張れば、きっと生活は良くなると二人とも信じていた。
あの頃はお金がなくて、屋台の300円のおでんを食べていても、閉店まで話し込んだものだった。
卒業後、彼はどうしても地元に戻って起業すると言い張り、私は帝都での内定を選んだ。二人で稼いで頑張ろうと約束した。
空港で見送ったあの日、彼は私を強く抱きしめて、家を買ったら結婚しようと誓った。
その約束を、6年も待ち続けた。
この6年間、私はひたすら働き続けた。
昼は会社勤め、夜は副業、週末は塾の講師まで掛け持ちした。
一番きつかった時期は、三ヶ月間毎日4時間しか眠れず、救急搬送されかけたこともあった。
それでもあの頃は、幸せだと思っていた。
これがすべてまやかしだったなんて、夢にも思わなかった。
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