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もう、あなたを待つ港じゃない第2話

この話は約1562字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

澪は、まさかそんな返しをされるとは思っていなかったらしい。

ゆっくりとネックレスを外し、ローテーブルの上に置いた。

「欲しいなら、持って帰れば?」

私は手を伸ばさなかった。

澪は続けた。

「でも、物だけ持って帰って何になるんですか?直哉が海の上で会いたいと思ってるのは、結局私ですよ」

そんな言葉は、もう私には刺さらなかった。

自分だけが特別だと思い込んでいる女の、独りよがりな芝居にしか見えない。

私は立ち上がった。

「それ、しばらく預かってて。なくさないでね」

澪が眉をひそめた。

「どういう意味ですか?」

「そのうち、確認する人が来るから」

玄関まで来たところで、またスマホが鳴った。

直哉からだった。

電話に出るなり、いきなり問い詰められた。

「凪紗、お前、汐見ベイレジデンスに何しに行った?」

私は振り返り、澪を見た。

澪はうつむき、すでにもう一台のスマホを操作していた。

ずいぶん早い。

「どうして知ってるの?」

直哉は一瞬黙った。

「澪から、知らない女が押しかけてきて絡まれたって連絡があった。お前だと思ったんだ」

「そう?あなたがダイヤを贈る相手なら、妻の私も知っておいたほうがいいと思って」

電話の向こうがしばらく静かになった。

やがて、直哉は苛立ちを押し殺した声で言った。

「あれは仕事関係の贈り物だ。変な勘繰りするな」

「仕事関係?」

「澪は東洋海運の港湾PRを手伝ってる。取引先みたいなものだ」

思わず笑いが漏れた。

「取引先に、わざわざダイヤを送って、受け取り方まで細かく指定するんだ?」

直哉の声が冷たくなった。

「凪紗、俺は船の上にいるんだ。こっちにまでお前の感情を持ち込まないでくれ」

私はそのまま電話を切った。

夜になると、直哉の母がやって来た。

よほど慌てていたのか、玄関で靴を脱ぐのもそこそこに入ってきた。

「澪さんのところへ行ったんだって?」

私はキッチンで鍋を火にかけていた。

「直哉から聞いたんですか?」

直哉の母はバッグをソファに放り投げた。

「直哉があんなに困ってるのに、誰から聞いたかなんてどうでもいいでしょう。凪紗さん、最近ちょっとわがままが過ぎるんじゃない?」

「夫がほかの女にダイヤを贈ってるのに、私がわがままなんですか?」

直哉の母の顔が険しくなった。

「直哉は船長なのよ。仕事柄、外での付き合いだって多いし、避けられないこともあるの。あなたはずっと家にいるから、外で働く大変さが分からないのよ」

私は荷物リストのコピーを取り出し、ダイニングテーブルに置いた。

「避けられない付き合いって、ここまでするものなんですか?」

直哉の母はちらりと目を落としただけで、ろくに読もうともしなかった。

「たかがアクセサリーでしょう。あなた、そんなものに困ってるわけじゃないでしょ?欲しいなら、直哉が帰ってきたら買ってもらえばいいじゃない」

「私が欲しいのは、アクセサリーじゃありません。嘘をつかないでほしいだけです」

直哉の母がテーブルを叩いた。

「何を嘘つかれたっていうの?直哉が稼いだお金は、ちゃんと家に入ってるでしょう?今こうして暮らせてるのだって、あの子が海に出て働いてるからじゃない」

私は黙って直哉の母を見た。

この家の頭金に使ったのは、父が遺してくれたお金だった。

内装も、全部私が見て決めた。

直哉は一年の大半を海で過ごし、寝室のカーテンが何色なのかさえ覚えていなかった。

私が何も言わないのを見て、直哉の母は折れたと思ったらしい。

「明日、澪さんに謝りなさい。この話はもう終わり。直哉の昇進に響くようなことだけはしないで」

私は鍋の火を止め、器によそった。

「謝りません」

直哉の母は怒りで手を震わせた。

「ずいぶん偉くなったものね。船長の妻って肩書きがあるから、今までいい思いができたんでしょう?直哉と別れたら、あなた一人で何ができるの?」

私は器を置いた。

「自分を取り戻せます」

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