たった10回の約束第2話
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私は一晩中泣き続け、そしてようやく、いろんなことが分かった。
翌日、私はかつての恩師を訪ね、まだ発表していなかった研究成果と引き換えに、政府の機密機関へ入るための採用枠を手に入れる。
あとはその時が来るのを待つだけ。そうすれば私は、朔と二度と会うことはない。
ニュースがここまで流れたところで、朔の顔色もみるみる悪くなる。
険しい眉を寄せ、私に「10回の約束」のことを思い出させようとしたそのとき、テレビからこんな言葉が聞こえてくる。
「皆さん、ご心配いただいてありがとうございます。でも、旦那と野原さんは、ただの友人です」
画面の中の私はマイクを握り、目には強い光を宿していた。そこには、少しの無理をしている様子もない。
「どうか皆さん、これ以上、野原さんへの根も葉もない噂や誹謗中傷はおやめください。もし続くようであれば、我が風間グループが最後まで責任を追及します」
朔は呆然とする。信じられない、とでもいうように。
実は3週間前にも、同じようなことがあった。
朔が結奈を連れて海辺へ行き、二人で熱烈なキスをしているところを記者に撮られたのだ。
あのときの私は、慌てふためいていた。写真を見た瞬間、目を真っ赤にして、泣きながら朔のもとへ駆けつけ、本人に確かめた。
けれど朔が私に返したのは、たった一言だった。
「俺にはまだ4回残ってるだろ」
私は朔とは幼馴染で、10年間ずっと彼の後を追い続けてきた。
その10年間、私は海外留学の機会を捨て、自分が心から愛していた専門分野まで捨てた。
ただ、いつか朔が振り返って、私を見てくれる日を待つために。
私は、待ち続けた。そして、ようやくその日が来た。
願いどおり、私は朔と結婚した。
けれど人生は、ただ待っていれば必ず報われるものじゃない。
結婚して7年目。朔の初恋の結奈が、帰ってきた。
彼女が帰国したその日、朔は泥酔し、何度も「結奈……」と彼女の名前を呼び続けた。
私は、もう彼を愛し続けることができなくなった。
だから朔を引き止め、二人の間で一つの約束を決めた。
――私と結奈のどちらかを選ぶ場面で、朔が10回彼女を選んだら、そのとき私は彼と離婚する。
1回目。私の誕生日に、朔は結奈と買い物へ出かけた。
2回目。結婚記念日に、朔は結奈と恋人同士の記念写真を撮った。
3回目、4回目、5回目……
朔自身は、もう何回目なのか覚えていない。海辺で結奈とキスしたあの日が、9回目だった。
そして10回目が、今日。
だから今、朔が理解できないという目で私を見つめていても、私はただ笑って、彼の望むままに嘘をついた。
「大丈夫だよ、朔。まだ3回も残ってるから」
それが私の気のせいだったのかは分からない。
朔は、ふっと長く息を吐いたように見える。顔色も、すぐに元へ戻っていく。
今回は、急いで部屋へ戻って結奈とビデオ通話をすることもない。代わりに、ポケットから一本のピンクダイヤモンドのブレスレットを取り出す。
「プレゼントだ」
言葉は短い。けれど、その目は熱を帯びて私を見つめている。
まるで昔の私のように、驚いて喜び、飛び上がるのを待っているかのようだ。
けれど、朔は勘違いしている。
私は、このブレスレットを知っている。
パリのクリスティーズのオークションで、朔が結奈の帰国祝いとして贈った「愛の証」というネックレスの付属品だった。
「愛の証」は17カラットのネックレスで、その価値は11億円を超える。
一方、このピンクダイヤモンドのブレスレットは、そのネックレスを加工した際に残った端材で作られたもの。価値は、そのほんの一部にすぎない。
じゃあ、これもまた、朔が結奈を選んだ1回ってこと?
心の中でそう思った私は、そのまま口にも出してしまう。
朔の表情が固まる。ついさっきまで浮かんでいた優しげな表情が、一瞬にして消え失せる。
彼は私を睨みつけ、腹立たしげに背を向ける。そして、恥ずかしさと苛立ちの混じった声で、ただ一言だけ吐き捨てる。
「いちいち細かいんだな」
私は、確かに細かい。
だからこそ、父が不倫をして母を追い詰め、死へと追いやったうえ、愛人まで連れて母の葬儀の場で騒ぎを起こしたときも、私は母の写真を抱きしめ、死んでも手放そうとしなかった。
だからこそ、朔が父から母の最後の一枚の写真を奪い取り、それを私の手に渡してくれたあの日から、私は彼に一途になったのだ。
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