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たった10回の約束第1話

この話は約1795字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

私――小倉梨々香(おぐら りりか)は雲の城でいちばん有名な「尽くし系」だ。

風間朔(かざま さく)の後ろを追いかけること、丸10年。

いちばんひどいときなんて、彼に人前で「犬かよ」と罵られても、私は反射的に「ワンワン」と二度鳴いてみせた。

そして、ついに私は彼の隣に立つことができた。

最初は私なんて眼中になかった朔も、やがて呆れたように私を受け入れ、最後には私と結婚してくれた。

結婚式で私を見る朔の瞳には、小さな星が浮かんでいるようだった。

その夜、私は彼に無理やり指切りをさせた。

「梨々香は、10年間ずっと朔を追いかけてきた。だからこれからは――朔が梨々香を裏切っていいのも、10回まで。

10回使い切ったら、梨々香は絶対に、何の未練もなく朔のもとを去ること」

朔は笑いながら、私の小指に自分の小指を絡めた。

結婚して7年目、朔の初恋の相手――野原結奈(のはら ゆいな)が帰ってきた。

結奈が帰国したその日、朔は泥酔するまで酒を飲み、何度も何度も「結奈……」と彼女の名前を呼び続けている。

私は慌てた。そして朔の肩をつかみ、昔の「10回の約束」を何度も繰り返した。

「いい?もし私と結奈のどちらかを選ぶことになって、10回結奈を選んだら、その瞬間、私は朔と離婚するから」

1回目。朔は、たいして気にした様子もなかった。

「あと9回も残ってるだろ」

そして、2回目、3回目……

9回目の時、ようやく朔の顔から余裕が消えた。彼は私の手をつかみ、何度も確かめた。

「梨々香、俺と離婚しないよな?」

私は静かに彼を見つめた。そして最後には、うなずいた。

それを見て、朔はようやく安心した。

だから、彼は迷いなく、最後の10回目を使った。

そして私は振り返る間もなく、国の機密機関に入っていった。

門が閉ざされた瞬間、そこから先の私たちの人生は、もう別々のものになった。

* * *

機密任務への参加申請を提出し終えたところで、朔も家に帰ってきた。

今回は前よりも慎重だったのか、体に残っている香水の匂いはかなり薄い。ただ、男というのは本当にこういうところが抜けている。

シャツの襟元に、鮮やかな赤い口紅の跡が半分残っていることを、すっかり忘れている。

朔は優しげな笑みを浮かべ、スマホを手に、向こうにいる相手へボイスメッセージを送っている。

【今帰ったよ。いい子にして、ちゃんと言うこと聞いてよ】

ところが、振り返って私の姿を見た瞬間、朔の表情は冷たくなり、声からもさっきまでの温度が消える。

「まだ寝てなかったのか?」

私は答えず、テレビの音量を最大まで上げる。

高画質の画面には、十数人の記者に取り囲まれた私が映っている。真っ黒なマイクが、まるで私を飲み込もうとしているようだった。

「奥さん、昨日のニュースをご覧になりましたか?風間社長が、今売り出し中の女優・野原結奈さんと不倫しているという噂は本当ですか?」

「昨夜撮影された写真についてもお聞きします。風間社長と野原さんが駐車場でキスしている写真が出ていますが、何かコメントをいただけますか?」

……

昨日、朔と結奈がホテルへ一緒に出入りする動画が、ネットで大きな話題になった。

動画の中で、結奈は清楚な服装をして、一方の手には花束を持ち、もう一方の手は朔と指を絡めてしっかりつないでいた。

その姿は、誰が見ても仲睦まじい恋人同士だった。

けれど朔は、手をつなぐのが嫌いだったはずだ。

昔、私は人前で何度も彼に手を振りほどかれ、そのたびに眉をひそめながら言われた。

「風間家の奥さんなら、もう少し慎ましくしてくれ。人前で、みっともない真似をするな」

朔は花も嫌っていた。あんなものは一番安っぽい贈り物だ、と。

結婚して7年、私は花びら一枚すらもらったことがない。

それなのに結奈は、朔の腕にぶら下がるように甘え、薔薇の花が朔の顔に当たっても、彼は怒るどころか気にも留めない。

結婚指輪だってそうだった。私は5年間、何度頼んでも朔に指輪をつけてもらえなかった。

なのに動画の中では、大きな手と小さな手がしっかりと指を絡め合い、二人の薬指には、お揃いのペアリングがきらきらと輝いていた。

まるで、私の結婚生活を嘲笑うかのように。

私はようやく分かる。朔は、手をつなぐのが嫌いだったわけじゃない。花が嫌いだったわけでもない。ましてや、本当に指輪が嫌いだったわけでもない。

ただ――相手が、私だったから。私が彼に求めたから。

彼は、私を愛していない。

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