和紙文これからは、自分に花束を · 第2話設定≡

これからは、自分に花束を第2話

この話は約2205字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

静香への輸血後はいつも、菫は気力を回復するまでに数日かかる。今回も例外ではなかった。

この数日間、後藤家の人たちは病院で静香に付きっきりだったので、家には菫一人が残されていた。

コップを手に部屋を出た菫は、誰が来たのか確かめる間もなく、飛んできた箱が顔に当たり、目がくらんだ。

このお馴染みの痛みに、考えるまでもなく、やって来たのは母だとすぐに察しがついた。

「菫!いったい何してたの、なんで私たちが送ったメッセージを見ないのよ!

わざとでしょ?わざとメッセージを無視して、静香を怒らせようとしたんでしょ!

この役立たず、本当に育て損なったわ!」

怒鳴り声の中、菫は血の滲む額を拭い、ポケットからスマホを取り出してラインを開いた。

今日の早朝、家族グループにメッセージが来ていた。今日は静香の退院日で、彼女の大好物のチョコレートケーキを作って迎えるように、と。

でも、輸血を終えたばかりの菫に、時間も手間もかかるケーキを作る体力なんてあるわけがない。

それに、朝からずっと頭がぼんやりしていて、スマホのメッセージに気づきもしなかったのだ。

説明しようと口を開きかけたが、ふと顔を上げると、勳と仁が静香を支え、ゆっくりとリビングに入ってくるところだった。

二人はこれでもかというほど静香に尽くしていた。クッションを当てて座り心地を良くしたり、水を手に渡したり。まるでお姫様扱いだ。

そして、仁は冷たい視線を菫に向けた。静香に向けられていた優しい眼差しは、瞬く間に嘲るようなものへと変わっていた。

「こいつが静香のためにケーキを作るなんて、夢でも見てるのか。

こいつは一日中、家でぐうたらしてるだけ。世間知らずで、何の趣味もない。くだらない絵を描く以外、静香に勝てるものなんて何一つないじゃないか」

この家に生まれてから、その大半を静香への輸血に費やし、残りの時間は家で休んで過ごすだけだった。

趣味?静香のように、そんなものを育む時間があっただろうか?

そして仁が言う「くだらない絵」とは、自分の何の潤いもない人生において唯一の夢だったのに、それさえも彼は一文の価値もないと貶したのだ。

そんな言葉はもう何度も聞かされてきた。それでも、聞くたびに心がひどく痛んだ。

勳が菫に目をやり、いつものように取りなしてくれた。

「菫、昨日の輸血で疲れて、体調が悪いのか?」

以前なら、彼がこうして庇ってくれるのを聞いたら、感動で胸がいっぱいになっただろう。

少なくとも一人だけは、自分の体や気持ちを気にかけてくれる人がいるのだと。

でも、一度死んで全ての真相を知ってしまった今、その言葉は皮肉にしか聞こえなかった。

勲が自分を庇うのは、ただ自分を愛しているという見せかけを作るためだけに過ぎない。

そして、自分が勲を愛しているから、彼はほとんど苦労することなく、自分を巧みに騙し、深い罠に陥れ、そこから抜け出せなくすることができた。

でも、今回はもう騙されない。

勳の言葉を聞くと、静香はすぐさま物分かりの良いふりをして口を開いた。「大丈夫よ。ケーキはなくても平気。菫はゆっくり休ませてあげて」

仁は菫を忌々しげに睨みつけた。菫の態度が心底気に入らないらしい。

「静香、あんなやつのことなんか気にするな。あいつがお前のために何かするのは、当たり前のことなんだ。

そもそも、あいつがこの世に生まれてきたのは、お前のためなんだから。

お前は優しすぎるんだよ。お前が幸せでいてこそ、あいつの存在価値がある。わかる?」

あまりにも露骨な言葉に、菫の心はまたしても激しく揺さぶられた。

一瞬、まるで無数の細い針が、彼女の胸を突き刺すかのようだった。

自分の体には、彼らと同じ血が流れている。自分は人間で、感情があって、痛みも感じる。

でも、誰も気にかけてくれない。誰も、自分のことなんて気にも留めてくれないんだ。

食事の間も、皆が静香に甲斐甲斐しく世話を焼き続けていた。

拓海と椿はしきりにおかずを静香の皿に取り分けるし、仁に至っては、魚の一番美味しい身をほぐし、彼女の取り皿に入れてあげていた。

テーブルに並んだ料理は、すべて静香の好物ばかり。

菫が黙々とご飯を口に運んでいると、不意にお椀にイカが一切れ入れられた。

隣に座る勳に視線を向け、次にお椀の中のイカを見て、彼女は悲しげに唇の端を上げた。

こんな時でも、まだ自分を愛するフリを忘れないなんて大したものだ。でも、本当に愛しているのなら、イカが静香の大好物で、自分がイカアレルギーなことを知らないはずがないのに。

勲が自分を愛していない証拠なんてそこら中にあった。なのに、ほんの少しの温もりを求めるあまり、今まで気づかないふりをしていたのだ。

食事が終わる頃、拓海と椿が勳と菫の結婚式の話を持ち出した。

静香は箸を置き、いつの間にか赤くなった瞳に涙を浮かべた。「お父さん、お母さん、最近なんだか体が弱っていて、菫と勳さんの結婚式には出られそうにないわ。

でも、二人の幸せはどうしても見届けたいの。だから、結婚式を延期してくれないかしら?私の体がもう少し良くなってからにするというのはどうかな?」

この家では、静香の願いはなんだって叶えられる。わざわざ言いにくそうにして、彼女の優しさをアピールする必要なんてどこにあるのだろう。

拓海と椿、それに仁はもちろん二つ返事で頷いた。でも、勳だけは少し間を置いて、菫のほうをちらりと見て意見を求めてきた。

「菫、お前はどうしたい?」

縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)