これからは、自分に花束を第1話
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時を遡った後藤菫(ごとう すみれ)が、まず最初にとった行動は、1000億円という途方もない金をはたいて、外界から完全に隔絶された島を買い取ることだった。
手続きを担当した職員は、驚きを隠せない様子だった。その島は全くの無名で、世間にはその存在すら知られていない上に、外界から完全に隔絶され、ナビにさえ載らない。まさに、この世界から完全に切り離されてしまうも同然の場所だったからだ。
「後藤さん、本当にこの島を購入されますか?もし島に住むとなると、外の世界と連絡を取るのは難しくなりますよ」
菫はうなずいた。その声には、どこか重荷を下ろしたような響きがあった。
「ええ、私が望んでいるのは、誰からも連絡がつかないことなんです」
* * *
時を遡った後藤菫(ごとう すみれ)が、まず最初にとった行動は、1000億円という途方もない金をはたいて、外界から完全に隔絶された島を買い取ることだった。
手続きを担当した職員は、驚きを隠せない様子だった。その島は全くの無名で、世間にはその存在すら知られていない上に、外界から完全に隔絶され、ナビにさえ載らない。まさに、この世界から完全に切り離されてしまうも同然の場所だったからだ。
「後藤さん、本当にこの島を購入されますか?もし島に住むとなると、外の世界と連絡を取るのは難しくなりますよ」
菫はうなずいた。その声には、どこか重荷を下ろしたような響きがあった。
「ええ、私が望んでいるのは、誰からも連絡がつかないことなんです」
電話口の職員は少し戸惑った様子だった。菫の言葉を不思議に思ったようだが、仕事柄それ以上は尋ねず、ただ購入手続きと入島できる時期について詳しく説明した。
手続きが数日で終わると聞き、菫は安堵の息をついた。彼女はすぐにカードで支払いを済ませ、その場を後にした。
彼女は頭上に広がる青空を見上げ、ほっと息をついた。
島の購入費用は、黒崎勳(くろさき いさお)がくれた結納金だった。
江川市一の富豪である彼は、いつも気前が良かった。だから結納金として、ぽんと1000億円もくれたのだ。
前の人生では、死ぬまでこのお金に手をつけることはなかった。
二度目の人生は、ちょうど彼と婚約した直後の時期に戻っていた。
今回、もう自分を犠牲にするのはやめよう。菫はまず、そう心に決めた。
彼女が通りに出ると、一台の黒いマイバッハが急ブレーキをかけて目の前に止まった。ドアが開き、勳が降りてきて、足早に菫の方へ歩いてきた。
いつも冷静沈着な勳が、少し慌てているようだ。その瞳には、隠しきれない心配の色が浮かんでいた。
人生をやり直してから初めて彼に会ったので、菫は思わずいつもの呼び名で声をかけた。
「勳さん……」
しかし勳は彼女をよく見ようともせず、ただその手を掴んで車の中へ引っ張った。
「菫、早く、一緒に来てくれ」
菫は後部座席に押し込まれ、ゴンと音を立てて頭をぶつけてしまった。
勳はスマホの画面に目を落としていて、菫のことには全く気づいていないようだった。
車は猛スピードで走り、やがて病院の前に停まった。
勳は車が完全に停まるのも待たずに、急いで菫の手を引き、輸血室へと向かった。
看護師の向かいに座り、自身の血管に注射針が刺し込まれるのを呆然と見つめていた菫は、ようやくそこで勳の説明を聞くことができた。
「静香がうっかり階段から落ちてしまって、血が止まらないんだ。今回はそんなに多くは採らないから、安心してくれ」
彼女が返事をする間もなく、いきなり頬を強く張られた。
「この馬鹿娘!どこに行ってたの!静香のそばを片時も離れるなって、いつも言ってるでしょう!」
頬が火についたように熱く、その痛みに菫は一瞬で目に涙を浮かべた。
彼女は顔を上げ、激怒している母の後藤椿(ごとう つばき)を見つめたが、一言も言い返すことができなかった。
側にいた父の後藤拓海(ごとう たくみ)は椿の肩を抱きながら、菫に向けて同じように怒りに満ちた目をしていた。
「わざと心配させるつもりか!もし静香に何かあったら、タダじゃおかないからな!」
そして兄の後藤仁(ごとう じん)は、菫のことなど見向きもしなかった。
「いっそのこと、紐で縛り付けておけばいいんだよ。そうすれば勝手にうろつかなくなるだろ」
これが自分の家族。姉の後藤静香(ごとう しずか)のためなら、どんなひどいことも平気でする。たった1時間いなかっただけで、この有り様だ。
普段なら、わずかながらも自分の味方をしてくれる勳でさえ、この時は静香への心配で頭がいっぱいだった。
「もうやめろ。静香の輸血に障るだろう」
自分のことなど、誰が気にかけるだろうか。しょせん自分は、静香に血を提供するだけの存在でしかないのだから。
自分がこの世に生まれたのは、静香が幼い頃から血友病を患い、重度の凝固障害のために定期的な輸血を必要としていたからだった。
両親は静香を助けるため、自分を生きた血液バンクとして生んだんだ。
誰も自分を愛さなかった。両親は自分を道具としか見ず、兄の心には静香という妹しかいなかった。自分はいつだって、家族にとって余計な存在だったのだ。
幼い頃から両親は姉ばかりを可愛がり、全ての優しさも愛情も姉に注ぎ込んだ。自分に残されたのは、ただのおざなりな扱いだけ。
誰も自分を愛さなかった。両親は自分を道具としか見ず、兄の心には静香という妹しかいなかった。自分はいつだって、家族にとって余計な存在だったのだ。
ただ一人だけ、自分に優しくしてくれた人がいた。それが勳だった。
黒崎家と後藤家は、両家の親同士が、昔からの友人だったため、6歳年上の勳は菫に、実の兄からも得られなかったような心遣いと温かさを与えてくれた。
誰からも見向きもされない家庭で育った菫が、唯一自分に温かく接してくれた勳を好きになるのは、ごく自然なことだった。
菫が告白すると、勲は驚いていた。顔に喜びは浮かんでいなかったが、それでも告白を受け入れ、必ず結婚すると約束してくれた。
その時の菫がすごく嬉しかった。まさか好きな人が、自分のことを好きでいてくれるなんて。
自分の幸運は、すべて勳の愛を手に入れるために使ってしまったのだと思っていた。
だから、両親や兄が自分をどう思っていようと、気にならなかった。
しかし後になって、勳が本当に好きな人は、なんと静香だったということを知ってしまったのだ。
勳が結婚を承諾したのは、自分が他の男と結婚して、言うことを聞かなくなるのを心配したからだ。そうなれば静香への輸血を断られ、彼女の命が脅かされるかもしれない。それを恐れたのだ。
勳は静香を愛するあまり、彼の人生を犠牲にしてでも、静香の無事を守りたかったのだ。
もうすぐ勳の妻になれると、有頂天になっていたなんて自分はなんて馬鹿だったんだろう。
笑える。本当に、笑える話だ。
救急治療室のドアが開き、静香が看護師たちに囲まれて運び出されてきた。
両親、仁、そして勳は、すぐに自分を置き去りにし、静香のもとへ駆け寄った。
彼らが静香の体調を気遣い、心配している姿を見て、菫はただただ吐き気を覚えた。
彼女は自嘲の笑みを浮かべた。目の前がぐらつくのを必死にこらえ、袖口を直し、立ち上がると外へ歩き出した。
外に出た菫は、薬指でまばゆく輝く婚約指輪を最後にもう一度だけ見つめた。そして、何のためらいもなく指から抜き取ると、ゴミ箱に投げ捨てた。
この人生ではもう、かつてのように両親にわずかな愛を乞うたり、わらにもすがる思いで勳に愛を求めたりはしない。
この人生では、もう誰もいらない。
みんなが静香を愛し、誰も自分を愛さないというのなら、自分で自分を愛するしかない。
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