あなたに薔薇を、私に自由を第2話
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律の眉間に苛立ちが浮かんだ。
彼は私の視線を避け、ポケットからタバコを取り出して火をつけた。
指先で明滅する赤い光と紫煙が彼の顔を覆い隠した。彼の顔がはっきり見えなくて、まるで彼との間に、七年という距離が横たわっているみたいに。
私は呆然とした。
私だけを見ていたあの少年が、いつからこんな風に変わってしまったのだ。
しばらくして、律は感情のない目で私を見た。
「雫、愛莉の名前を聞いただけで、すぐに疑心暗鬼になるのはやめろ。
道で偶然に会って、彼女が女の子はみんな白い薔薇が好きだって、純潔で縁起がいいからって教えてくれただけだ。
善意でアドバイスしてくれただけだぞ!
お前の育った家庭環境が良くなかったのは分かってる。だけど、そういう暗い過去をいつまで俺たちの生活に持ち込むつもりだ?
トラウマだ何だと騒ぐ前に、自分の性格を見直したらどうだ?」
大粒の涙が頬を伝う。私は目の前の男を、信じられない思いで見つめた。
彼は私の過去を知り尽くしている。
だからこそ、どうすれば私が一番傷つくかも知っているのだ。
母は白い薔薇を愛していた。
家には庭一面に植えられた純白の花畑があった。
母は泥酔するたび、私の髪を掴んでその花畑に引きずり込んだ。
私の顔を土に押し付け、鋭い棘が肉に食い込むのを強いた。
それは幼少期の最も深い悪夢だ。だから私は白い薔薇を憎んでいる。
私がまともな人間として生きられるようになるまで、どれほどの時間をかかったのか、彼は知っているはずだ。
なのに今、彼は他の女を庇うために、私の傷口をえぐった。
私はこみ上げる苦さを飲み込んだ。
「あのプロポーズ動画、私が知らないとでも思った?」
律の指が震え、瞳が一瞬泳いだ。
だがすぐに平然とした表情に戻る。
「あれはコンサートの余興だよ。愛莉はお前の妹だろ?
帰国したばかりで一緒に見る人がいないから、義兄として付き合ってやっただけだ。
卑屈な考え方をするな!」
私は乾いた笑い声を漏らした。
目が真っ赤になる。
「義兄だって分かってるくせに。
私がどれだけ愛莉を嫌いかも知ってるくせに!」
幼い頃、母に酒をやめてと泣いて頼んでも、返ってくるのは暴力だけだった。
そして、スーパーで酒を万引きさせられた時の、あの屈辱と恐怖だけだった。
捕まるたびにいつも傷だらけになった。
だが酒浸りだった母は、愛莉が生まれた途端、奇跡的に酒を断った。
私がどれだけ求めても得られなかった母の愛は、すべて愛莉に注いだのだ。
それでも愛莉は満足せず、私のものを奪おうとした。
かつては留学のチャンス、現在は夫までだ。
律は私を見下ろし、嫌悪感を隠そうともしなかった。
「雫、世界中がお前に借りがあるみたいなその態度、もううんざりだ!
そんなに白い薔薇が嫌なら、もう二度と花なんか贈らない!」
そう言い捨てて、彼はドアを叩きつけるように出て行った。
私はその場に立ち尽くし、やがて崩れ落ちるようにソファに座り込んだ。
翌日、母から電話がかかってきた。それだけで、疲れがどっと押し寄せた。
どうせ文句を言いに来たのだろう。
迷った末に出ると、案の定、怒声が飛んできた。
「雫!愛莉が帰国したばかりなのよ、律が少し面倒見たくらいいいじゃない!
姉として、もっと広い心を持てないの!」
スマホを握る手が、白くなるほど力を込めた。
「律はコンサートで彼女にプロポーズしたのよ。
妻である私に、どうやって広い心を持てと言うの?」
電話の向こうで一瞬沈黙があり、冷笑が聞こえた。
「結婚だって別れることがあるんだから、たかがプロポーズぐらいで騒がないでよ。
だいたい、私が再婚してあんたをあのギャンブル狂いの父親に押し付けなかったら、律みたいな御曹司に出会えたと思う?
まったく、実の妹と張り合うなんて見苦しい!
だからあんたは嫌いなのよ。性分が生まれつきで卑しい。男なら誰にでも色目使って回ってるけど、まさか自分の父親にまで手を出すつもり?」
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