あなたに薔薇を、私に自由を第3話
この話は約1483字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
胸が締め付けられる。
昔から浴びせられてきた言葉だが、それでも、母親が自分の娘に向けていい言葉だろうか?
「父がギャンブルの借金のために私を売り飛ばそうとした時、あなたは何をしてた?
愛莉の誕生日パーティーをしてたじゃない!」
私の叫びに一瞬言葉を失ったようだが、すぐに怒鳴り返してきた。
「いつまで昔の話を蒸し返すの!最後は無事だったでしょ?
警告しておくけど、愛莉と律の仲を裂くような真似をしたら、親子の縁を切るからね!」
電話が切れた。
流れる涙が、焼きつくように熱く、呼吸さえ奪っていく。
縁を切る?
私が娘だと思ってくれたことが一度でもあったの?
その時、玄関のロックが解除される音がした。
律が帰ってきたのだと思い、慌てて涙を拭った。
惨めな姿を見せたくない。
彼が心配してくれるとは思えないけれど。
だが、入ってきたのは愛莉だ。
彼女は笑顔でリビングを見回し、ゴミ箱の中の白い薔薇に目を留めた。
「あら、律さんが選んでくれたのに、捨てちゃったの?」
彼女は一輪拾い上げ、鼻を近づけて香りを嗅ぎながら挑発的な目を向けた。
「まあ、お姉ちゃんみたいに掃き溜めで育った人間には、こういう上品なものは似合わないわよね。
花は、愛されてる人間だけがもらえるものだよ」
私は冷たく言い放った。
「出て行って、二度と来ないで!」
愛莉は軽く笑った。
「昨夜、律さんがなぜ帰らなかったか知ってる?私のところにいたのよ。
夫を家に帰らず義妹のところに来るような男にしてしまったなんて、妻として失格ね」
私は吐き気がして、顔色が青ざめた。
愛莉はさらに図に乗った。
「律さんが昔あんたを口説いたのは、あんたみたいな冷たいタイプが珍しかったからよ。
本気で愛されてるとでも思った?笑わせないで。
あんたみたいの陰気な女、誰が好きになるのよ」
我慢の限界だ。
私は彼女の頬を叩いた。
ほぼ同時に、玄関から怒声が響いた。
「雫!何をしてるんだ!」
律が帰ってきたのだ。
手には朝食が持っている。
仲直りしに来たのだろうが、最悪のタイミングだった。
愛莉の反応は素早かった。
彼女はわざとらしく後ろに倒れ込み、悲鳴を上げた。
「痛い……お姉ちゃんに突き飛ばされて……」
律が血相を変えて駆け寄り、私を突き飛ばした。
無防備だった私の腰が棚にぶつかり、激痛が走った。
「っ……」
痛みにうずくまり、冷や汗が吹き出す。
だが律は私を見ようともしなかった。
彼は愛莉を慎重に抱き起こし、額の小さな擦り傷を見て心を痛めていた。
「愛莉、大丈夫か?どこか痛むか?」
愛莉は弱々しく彼の胸に寄りかかり、しおらしい声で言った。
「律さん、お姉ちゃんを責めないで……
私が悪いの、お姉ちゃんを怒らせちゃって……
お姉ちゃんは、私の顔も見たくないって……」
律が私を睨みつけた。その目には嫌悪感が溢れている。
「雫、なんて心の狭い女だ!愛莉は親切で見舞いに来たのに、暴力を振るうなんて!
だから実の母親に嫌われるわけだ。お前は愛莉の足元にも及ばない!
やはり義母さんが言ってた通りだ。お前は愛莉に嫉妬してるんだな。
義母さんの言葉を信じなかった俺が馬鹿だった!」
彼の言葉はナイフのように、私の心を切り刻んだ。
立っているのもやっとで、心臓が握り潰されそうだった。
「律、七年よ。七年も一緒にいたのに、私はあなたにとってそんな人間だったの?」
律の瞳が揺れ、一瞬ためらいが見えた。
だが愛莉が「痛い……」と声を上げると、その迷いは消え失せた。
彼は愛莉を抱き上げ、足早に出て行った。
去り際に冷たく言い捨てた。
「雫、頭を冷やせ」
部屋に静寂が戻る。
床に散らばった朝食の牛乳とパンが、私の七年間の愚かさを嘲笑っているようだった。
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