あなたに薔薇を、私に自由を第1話
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結婚七周年目の記念日。SNSで話題の動画が目に飛び込んできた。
コンサート会場の客席で、男が片膝をつき、白いワンピースの女性にプロポーズする。
一目見た瞬間、全身の血が凍りついた。
男が着ている白いシャツは、今朝、私・水瀬雫(みなせ しずく)が夫である西園寺律(さいおんじ りつ)のためにアイロンをかけたものだ。
胸元には、私のイニシャルの刺繍が入っている。
三時間前、律は申し訳なさそうに私の額にキスをしたばかりだった。
「急に海外と会議することになっちゃって。
ごめん、雫、約束してたコンサート、行けなくなった」
なるほど、会議ではなく、他の女と一緒にコンサートに行ったのだ。
インターホンが鳴り、アシスタントが朝露に濡れた白い薔薇の花束を抱えて立っていた。
「社長はどうしても抜け出せないそうで、奥様へのお詫びの品です」
息が止まりそうだった。
私は白い薔薇が大嫌いだ。
「もし愛がなくなったら、別れの合図として白い薔薇を贈って」と冗談めかして言ったことさえある。
花束を受け取り、テーブルの上の無駄になったコンサートチケットと一緒にゴミ箱へ投げ捨てた。
スマホを取り出し、弁護士に離婚協議書の作成を依頼した。
* * *
結婚七周年目の記念日。SNSで話題の動画が目に飛び込んできた。
コンサート会場の客席で、男が片膝をつき、白いワンピースの女性にプロポーズする。
一目見た瞬間、全身の血が凍りついた。
男が着ている白いシャツは、今朝、私・水瀬雫(みなせ しずく)が夫である西園寺律(さいおんじ りつ)のためにアイロンをかけたものだ。
胸元には、私のイニシャルの刺繍が入っている。
三時間前、律は申し訳なさそうに私の額にキスをしたばかりだった。
「急に海外と会議することになっちゃって。
ごめん、雫、約束してたコンサート、行けなくなった」
なるほど、会議ではなく、他の女と一緒にコンサートに行ったのだ。
インターホンが鳴り、アシスタントが朝露に濡れた白い薔薇の花束を抱えて立っていた。
「社長はどうしても抜け出せないそうで、奥様へのお詫びの品です」
息が止まりそうだった。
私は白い薔薇が大嫌いだ。
「もし愛がなくなったら、別れの合図として白い薔薇を贈って」と冗談めかして言ったことさえある。
花束を受け取り、テーブルの上の無駄になったコンサートチケットと一緒にゴミ箱へ投げ捨てた。
スマホを取り出し、弁護士に離婚協議書の作成を依頼した。
……
署名を終え、ソファに座って壁掛け時計の針が進むのを眺めていた。
あの動画はさらに拡散されている。
コメント欄には羨望の声が溢れていた。
【素敵!コンサートでプロポーズなんてロマンチックすぎる!】
【彼女、幸せそう。嬉し涙に濡れた顔もキュート】
私は動画の中の女性を見つめた。知っている顔だ。
星野愛莉(ほしの あいり)、私の異父妹だ。
なんて滑稽な話だろう。
動画の中の律は赤い薔薇を捧げ、震える声で言っていた。
「愛莉、出会うのは遅かったけれど、これからの人生、君と一緒にいたい」
その深い愛情に、私の目頭が熱くなる。
七年前の蒸し暑い午後、律が私に告白した時の初々しい姿を思い出す。
少年の瞳は、夏の太陽よりも熱く輝いていた。
「雫、愛するのが怖いのは分かってる。
大丈夫、お前が俺を愛してくれるようになるまで、ずっと待ってるから」
ドアノブが回り、外の冷気をまとって、律が入ってきた。
「まだ起きてたのか?」
薄暗がりに座る私を見て一瞬驚いたようだが、すぐに何事もなかったかのように靴を履き替え、ネクタイを緩めた。
「待たなくていいって言っただろ?会議が手強くて、こんな時間になってしまった」
私は静かに彼を見つめた。視線はシャツの襟元についた口紅の跡に注がれる。
「会議は順調だった?」
律が抱きしめようと近づいてくると、ふわりと香りが漂ってきた。
甘ったるい薔薇の香水の匂いだ。
あれは愛莉の香水の匂いだ。
吐き気が込み上げ、私は思わず彼を突き放した。
彼は眉をひそめたが、我慢して説明した。
「順調だったよ、ただ疲れただけだ。
そういえば花は届いたか?特別に選ばせたんだよ」
喉の奥が引きつる。
「捨てたわ」
律の顔色が曇った。
「雫、何が不満なんだ?たかがコンサートだろ?
償いもしたのに、まだ足りないのか?」
「今日は七周年の記念日よ」
私は掠れた声で言った。
「そして、忘れたの?私は白い薔薇が一番嫌いだって言ったはずよ」
律はハッとした。
だが数秒後、苛立ったようにネクタイをソファに投げつけた。
「雫、いちいち感傷的になるなよ。ただの花だろ?
白い薔薇がどうしたって言うんだ?愛莉が……」
彼は口をつぐみ、視線を逸らした。
私は顔を上げ、冷たい声で聞いた。
「愛莉が何て?」
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