和紙文40度の真夏に、私は両親に車の中に閉じ込められた · 第2話設定≡

40度の真夏に、私は両親に車の中に閉じ込められた第2話

この話は約1761字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

車内の温度計は、すでに60度を超えていた。

熱せられた内装のプラスチックから、嫌な匂いが漂ってくる。

激しい吐き気に襲われて胸がむかつくのに、胃の中には吐き出せるものなど何もない。

今朝、母は陽斗の分だけハムエッグを焼き、私には水の一滴さえ与えてくれなかったのだから。

私は頭を窓ガラスに叩きつけた。

額が割れ、血が頬を伝って口の中に流れ込んでくる。鉄の味が広がった。

のどが渇いてたまらない。

ドアポケットを探ったが、空っぽだった。

ミネラルウォーターの一本すらない。

たった一本残っていた飲みかけの水も、車を降りる時に陽斗が持っていってしまったのだ。

内臓が壊れていくようだ。お腹の奥から狂おしいほどの激痛が広がっていく。私は痛みを感じて口を大きく開けた。

私は後部座席の足元にあるフロアマットの上に体を丸めた。そこが、車内で唯一日の当たらない場所だったから。

マットには、陽斗が散らかしたお菓子のくずや泥がこびりついていた。

私はその汚らしいマットに顔を押し付け、少しでも冷たさを感じようとした。

だが、無駄だった。マットすら熱を帯びている。

爪が食い込むほどに、マットを引っ掻いていた。そうすれば内臓の痛みが少しでも和らぐかのように。

遠のく意識のなかで、色んなことが頭をよぎった。

8歳の時、私が高熱を出したのに、両親は陽斗だけを連れてごちそうを食べに出かけ、私を一人で家にお留守番させた。

高熱で引きつけを起こしていた私に気づいた近所の人が、ドアを蹴破って病院へ運び込んでくれた。

医者は「あと30分遅れていたら後遺症が残るところだった」と言った。

なのに病院に駆けつけた両親が最初に口にしたのは、私への責める言葉だった。

「ただの熱くらいで大騒ぎして、ご近所に恥晒してんじゃないわよ。

入院なんて、金の無駄遣いさせやがって」

15歳の時、私が学年トップの成績を取り、陽斗が学年最下位を取った。

なのに父は私の賞状をビリビリに破り捨てた。

「女がいくら勉強したって何になる!

どうせ他家に嫁ぐ身だろうが!

お前は将来、陽斗の起業の資金でも稼いでいればいいんだ」

そして昨日、大学の合格通知書を手渡した時、母は一瞥さえしなかった。

「学費は自分でなんとかしなさい。

うちのお金は全部、将来陽斗に家を買ってやるために残しておくんだから」

そして今、私はここで死のうとしている。

呼吸は静かに途切れ、視界は完全な闇へと落ちていった。

心臓の鼓動が止まり、体を苛んでいた苦痛が消え去る。

体がふわりと軽くなり、車のルーフを通り抜けて、宙へと浮かび上がっていく。

私は空中で、マットの上に痛々しく丸まり、真っ赤に変色した皮膚のまま、半開きの目で息絶えている自分の姿を見下ろした。

私は、18歳の夏に死んだ。

涙は、一滴も出なかった。

私は揺ら揺らと、遊園地の方角へと漂っていった。

あの人たちが今、何をして楽しんでいるのか確かめるのだ。

遊園地の中は、大勢の人で賑わっていた。

上空から見下ろすと、あの3人の姿はすぐに見つかった。

父と母は、陽斗に付き添ってバンパーカーに乗っていた。

運転席には陽斗、助手席には父が座り、ハンドルさばきを教えている。

母は柵の外からスマホをかざし、弾けるような笑顔で写真を撮っていた。

「陽斗、すごいわ!」

「ぶつけろ! あの子の車にぶつけろ!」

父が大声で指図すると、陽斗は興奮した叫び声を上げた。

一回分が終わると、陽斗はまだ遊び足りない様子で走ってきた。

「僕、もっとやりたい!」

母は急いで冷えたジュースを差し出した。

「いいわよ、すぐチケット買ってあげるからね。

今日は思いっきり遊ぼうね」

父はポケットからハンカチを取り出し、陽斗の汗を甲斐甲斐しく拭った。

「暑くないか? どっかエアコン効いてるとこで休むか?」

陽斗は首を振る。

「ジェットコースターに乗りたい!」

その3人家族の頭の片隅にも、屋外駐車場に残された私の存在などなかった。

昼時になると、3人は遊園地内にある高級なテーマレストランへ入っていった。

店内はエアコンの冷気が心地よく効いている。

母はステーキにピザ、シーフードパスタと、テーブルいっぱいに豪華な料理を注文した。

陽斗はアイスクリームを口いっぱいに頬張っている。

「ねえお母さん、お姉さんはどうして来ないの?」

ふと、陽斗が口を開いた。

ステーキを切っていた母の手が止まった。

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