40度の真夏に、私は両親に車の中に閉じ込められた第2話
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車内の温度計は、すでに60度を超えていた。
熱せられた内装のプラスチックから、嫌な匂いが漂ってくる。
激しい吐き気に襲われて胸がむかつくのに、胃の中には吐き出せるものなど何もない。
今朝、母は陽斗の分だけハムエッグを焼き、私には水の一滴さえ与えてくれなかったのだから。
私は頭を窓ガラスに叩きつけた。
額が割れ、血が頬を伝って口の中に流れ込んでくる。鉄の味が広がった。
のどが渇いてたまらない。
ドアポケットを探ったが、空っぽだった。
ミネラルウォーターの一本すらない。
たった一本残っていた飲みかけの水も、車を降りる時に陽斗が持っていってしまったのだ。
内臓が壊れていくようだ。お腹の奥から狂おしいほどの激痛が広がっていく。私は痛みを感じて口を大きく開けた。
私は後部座席の足元にあるフロアマットの上に体を丸めた。そこが、車内で唯一日の当たらない場所だったから。
マットには、陽斗が散らかしたお菓子のくずや泥がこびりついていた。
私はその汚らしいマットに顔を押し付け、少しでも冷たさを感じようとした。
だが、無駄だった。マットすら熱を帯びている。
爪が食い込むほどに、マットを引っ掻いていた。そうすれば内臓の痛みが少しでも和らぐかのように。
遠のく意識のなかで、色んなことが頭をよぎった。
8歳の時、私が高熱を出したのに、両親は陽斗だけを連れてごちそうを食べに出かけ、私を一人で家にお留守番させた。
高熱で引きつけを起こしていた私に気づいた近所の人が、ドアを蹴破って病院へ運び込んでくれた。
医者は「あと30分遅れていたら後遺症が残るところだった」と言った。
なのに病院に駆けつけた両親が最初に口にしたのは、私への責める言葉だった。
「ただの熱くらいで大騒ぎして、ご近所に恥晒してんじゃないわよ。
入院なんて、金の無駄遣いさせやがって」
15歳の時、私が学年トップの成績を取り、陽斗が学年最下位を取った。
なのに父は私の賞状をビリビリに破り捨てた。
「女がいくら勉強したって何になる!
どうせ他家に嫁ぐ身だろうが!
お前は将来、陽斗の起業の資金でも稼いでいればいいんだ」
そして昨日、大学の合格通知書を手渡した時、母は一瞥さえしなかった。
「学費は自分でなんとかしなさい。
うちのお金は全部、将来陽斗に家を買ってやるために残しておくんだから」
そして今、私はここで死のうとしている。
呼吸は静かに途切れ、視界は完全な闇へと落ちていった。
心臓の鼓動が止まり、体を苛んでいた苦痛が消え去る。
体がふわりと軽くなり、車のルーフを通り抜けて、宙へと浮かび上がっていく。
私は空中で、マットの上に痛々しく丸まり、真っ赤に変色した皮膚のまま、半開きの目で息絶えている自分の姿を見下ろした。
私は、18歳の夏に死んだ。
涙は、一滴も出なかった。
私は揺ら揺らと、遊園地の方角へと漂っていった。
あの人たちが今、何をして楽しんでいるのか確かめるのだ。
遊園地の中は、大勢の人で賑わっていた。
上空から見下ろすと、あの3人の姿はすぐに見つかった。
父と母は、陽斗に付き添ってバンパーカーに乗っていた。
運転席には陽斗、助手席には父が座り、ハンドルさばきを教えている。
母は柵の外からスマホをかざし、弾けるような笑顔で写真を撮っていた。
「陽斗、すごいわ!」
「ぶつけろ! あの子の車にぶつけろ!」
父が大声で指図すると、陽斗は興奮した叫び声を上げた。
一回分が終わると、陽斗はまだ遊び足りない様子で走ってきた。
「僕、もっとやりたい!」
母は急いで冷えたジュースを差し出した。
「いいわよ、すぐチケット買ってあげるからね。
今日は思いっきり遊ぼうね」
父はポケットからハンカチを取り出し、陽斗の汗を甲斐甲斐しく拭った。
「暑くないか? どっかエアコン効いてるとこで休むか?」
陽斗は首を振る。
「ジェットコースターに乗りたい!」
その3人家族の頭の片隅にも、屋外駐車場に残された私の存在などなかった。
昼時になると、3人は遊園地内にある高級なテーマレストランへ入っていった。
店内はエアコンの冷気が心地よく効いている。
母はステーキにピザ、シーフードパスタと、テーブルいっぱいに豪華な料理を注文した。
陽斗はアイスクリームを口いっぱいに頬張っている。
「ねえお母さん、お姉さんはどうして来ないの?」
ふと、陽斗が口を開いた。
ステーキを切っていた母の手が止まった。
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