3年悼んだ息子は、親友をママと呼んだ第2話
この話は約1428字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
システムが点滅した。
(離脱経路を開きました。72時間後、死亡してこの世界から離脱します)
悠真の見覚えのある顔立ちを見つめていると、どうしても諦めきれなかった。しゃがんで手を差し出す。
「悠真、私が本当のママなの。一緒に来てくれる?」
悠真が小走りで近づいてきて、私は思わず笑顔になった。
次の瞬間、彼はそばにあったおもちゃをつかみ、私の顔にたたきつけた。
「パパを取るな!ママは1人だけだ!この悪い女、死んじゃえ!」
頬が赤く腫れる。美緒は慌てて悠真を抱き上げた。
「紗季、わざとじゃないの。たたかないであげて」
母まで、悠真を守るように私を突き飛ばした。
「まだ小さいのに、本当の母親だなんて、どうしてそんなことを言うの!」
悠真は美緒の胸に顔を埋めて泣き叫び、なだめても泣きやまなかった。
しびれを切らした直人が、私の手をつかんで引っ張っていく。
「君を見ると泣くんだ。先に帰ってくれ!」
直人は通りかかったタクシーを止め、私を押し込んだ。
バックミラーに、2人で慣れた様子で悠真をあやす姿が映る。涙が頬を伝った。
家に帰ると、もともと少ない荷物をまとめ始めた。クローゼットからアルバムが落ちてきて、開いてみる。
悠真が生後1か月の頃、1歳の誕生日、その後の誕生日、お正月……
どの写真でも直人と美緒が悠真を抱き、その両側に父と母が立っていた。裏には【家族写真】と書かれている。
十数枚の写真に、四季折々の家族が収まっていた。
この家で何も知らなかったのは、私だけだった。
視界がかすみ、泣くまいと唇をかんだ。アルバムの奥に隠されていたUSBメモリーを、震える手でパソコンに挿し、動画を再生する。
結婚行進曲が流れた。頭の中が真っ白になる。
画面の中の直人は美緒の手を取り、私の実家の屋敷の前に立っていた。両親が壇上であいさつしている。
「美緒が小さい頃から、私たちはずっと見守ってきました。これからは直人と、幸せになってほしいと思います」
映像が控室に切り替わる。美緒が不安そうに尋ねた。
「ねえ、直人。紗季、帰ってこないかな?」
直人は優しくほほえみながら、美緒にベールをかけた。
「帰ってこないよ。今日は墓地に行ってる。丸1日いるはずだから」
私は慌てて一時停止した。画面に表示された式の日付は、去年の息子の命日だった。あの日、私は朝早く家を出た。
息子の墓の前で、私が1日中泣いていたとき。この2人は結婚式を挙げていたのだ。
アルバムが床に落ち、ドアが開いた。
散らかった床を見るなり、直人が怒りをあらわにした。
「紗季!悠真の写真にまで八つ当たりすることないだろう!」
私は彼をにらみつけた。憎しみで、目の奥が熱い。
「どうして?どうして私にこんなことができるの!私がどれだけ苦しんでるか知ってて、自分たちだけ幸せならそれでいいの?」
直人はパソコンの画面に気づき、途端に勢いを失った。
「僕は……」
髪を乱暴にかき回し、近づいてきて私の手をつかんだ。
「もう済んだことじゃないか。知らなかったことにできないのか?
美緒の、花嫁になりたいっていう願いをかなえただけだよ。僕が一番愛してるのは君なんだ!悠真は美緒に預けて、僕たちはまた子供を作ればいい!」
そう言いながら私を抱き上げ、ベッドに乱暴に下ろした。そのまま、私に覆いかぶさってきた。
パシン、と彼の頬をたたいた。
直人は頬を押さえ、信じられないという顔で私を見た。
「僕をたたいたのか?」
彼を押しのけた。心に残っていた最後の期待も、もう消えていた。
「直人、離婚しよう」
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)