3年悼んだ息子は、親友をママと呼んだ第1話
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3年前、私は難産の末に子供を失った。高瀬直人(たかせ なおと)は分娩室の外で泣き崩れ、膝をついていた。
それから3年、彼は何くれとなく私を気遣ってくれた。
それなのに、出産ミッションの進捗は99%から動かない。
もう達成できないのだと思っていた。
子供の命日、墓参りの帰りにふと思い立って海辺へ向かった。気晴らしに歩いていると、小さな男の子が私の脚にぶつかってきた。
「大丈夫?パパとママはどこ?」
男の子は起き上がると、私の手を振り払って駆けていった。
その先を目で追い、私は凍りついた。
ヤシの木の下。ビーチチェアに寝そべった直人が、飛び込んできた男の子を笑顔で抱き留めていた。
「パパ!ママ!」
その子が笑ってママと呼んだ相手は、私の親友、藤代美緒(ふじしろ みお)だった。
隣には私の両親までいて、ココナッツジュースを手に男の子の相手をしている。
「悠真(ゆうま)、おいで。おばあちゃんが抱っこしてあげる!」
父はジュースをひと口飲むと、ため息をついた。
「紗季(さき)は、また墓参りか。あの子が知ったらなあ。悠真が実は……」
「お義父さん!」
直人は父を遮り、悠真の耳をふさいだ。
「この子は、紗季が美緒に償うための子なんです」
手のひらに爪を食い込ませた。信じられず、何度もまばたきをした。
久しく聞いていなかった、冷たい電子音が耳元に響いた。
(ユーザー様、確認が取れました。この子は、あなたが産んだ子供です……
出産ミッションの達成を確認しました。この世界から離脱しますか?)
* * *
頭の奥がじんと鳴り、その場から動けなくなった。
「パパ、ママ。さっき助けてくれたの、このおばさんだよ」
悠真に手を引かれて、直人と美緒がやってくる。私を見るなり、2人の笑顔が消えた。
「紗季……」
直人は明らかに動揺し、とっさに悠真を自分の後ろへ隠そうとした。
涙がこみ上げた。
「隠さないでよ、直人。説明してくれないの?」
彼は大きく息を吸った。
「知られたからには、もう隠さない。そうだよ。悠真は君が産んだ子だ。あのとき、僕が嘘をついた」
美緒は唇を真っ白にして、悠真の手を握り締めていた。
「紗季、直人を責めないで。全部、私が悪いの」
そう言うなり、美緒は悠真の背中を押した。
「悠真、行って。あっちが本当のママなの」
悠真がわっと泣きだした。
「やだ!あのおばさんはやだ!ママだけが好きなの!ママ、悠真を捨てないで!」
悠真は美緒の手を離さず、美緒も彼を抱き締めて泣きじゃくっていた。
両親には、私が2人を無理やり引き離そうとしているように見えたらしい。
「紗季!」
母が駆け寄り、美緒をかばうように前に立った。
「この2人を引き離すなんて許さないわよ。お父さんも私も、これでいいって決めたんだから!」
声が震えた。
「じゃあ、みんな知ってたの?」
母は気まずそうにせきをして、視線をそらした。
「もとはといえば、あなたのせいでしょう。スキーで事故に遭ったあなたを助けて、美緒は体を冷やしてしまったの。そのせいで、もう一生子供を産めないのよ。あなたの子を育てるくらい、当然じゃない?」
当然?
でも、美緒が子供を産めなくなったのは、大学時代の中絶が原因だったはずなのに。
美緒は後ろめたそうに唇をかみ、私を見ようとしない。
私が黙っているのを、母は納得したのだと受け取った。
「もう3年もたつんだから、今さら言わないの。あなたと直人は、また子供を作ればいいでしょう。この3年、私たちは毎週悠真に会いに来てたのよ。美緒は優しいし、よく気がつくわ。泣いてばかりのあなたより、ずっと上手に育ててくれてる」
父も満足げにうなずいた。
「美緒は私たちにもよくしてくれる。もう娘だと思っているんだ。紗季も妹ができたと思えばいい。悠真のことは、どうしても諦められないなら、甥っ子としてかわいがればいいだろう」
幸せそうにまとまる家族を前に、体の芯まで冷え切っていく。
震える笑いが漏れ、涙がこぼれた。
「命がけで産んだ子は美緒の息子にして、私の夫は美緒を妻扱いして、実の両親まで美緒を娘にするの?
この3年、私のことを何だと思ってたの!どうして、もっと早く教えてくれなかったの?」
全身を震わせながら、美緒を指さした。
「私が毎日毎日、苦しくて壊れそうになってた間、さぞいい気分だったでしょうね!」
「紗季!」
直人が眉をひそめ、私をとがめるように見た。
「美緒は関係ない。責めるなら、僕だけを責めてくれ!」
喉に血の味がこみ上げる。壁に手をついてどうにか体を支え、心でシステムを呼び出した。
(離脱する。もう1秒だって、ここにいたくない!)
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