101回目の求婚より、私は別れを選んだ第2話
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修一はうなずいた。
「まあ、そうだな。水城さんが君と別れられるとは思えない。君に夢中で、これまでどれだけ無茶してきたか、みんな知ってるしな」
確かにそうだった。
この数年、私は怜司のことで何度も取り乱し、自分を大切にすることさえ忘れていた。そんな中、がんまで見つかった。
怜司があれほど好き勝手できたのも、私が何をされても離れないと思っていたからだ。
けれど、それも今日までだ。
私は乾いた笑いをこぼし、足早にその場を離れた。
翌日、怜司は新恋人と噂されている沙耶を連れ、事務所にデートしにやって来た。
同僚たちは心配そうに私を見ていた。
けれど私は何事もなかったように、退職届を提出した。
人事部長は驚いたように私を見た。
「水城さん、急にどうしたんだ?優秀なマネージャーなのに、辞めるなんてもったいないじゃないか。桐谷さんに新しい恋人ができたからか?」
私は力なく唇を結んだ。
誰もが、私がここにいるのも、ここを去るのも、すべて怜司のためだと思っている。
自分のために選んだことだとは、誰も考えてくれない。
「……まあ、そんなところです」
「でも、君が辞めると知ったら、桐谷さんはかなり怒るんじゃないか?」
人事部長はそうつぶやきながらも、退職届に受理印を押した。
ようやく自由になれた。
自分のデスクに戻ると、沙耶の肩を抱いた怜司がこちらへ歩いてきた。
「美月、俺の新しい彼女、どう思う?」
私は怜司の隣にいる沙耶へ目を向けた。
「きれいね」
私の答えが意外だったのか、怜司は一瞬たじろぎ、顔をこわばらせた。
「美月、お前……変わったな」
確かに、私は変わった。
以前の私は独占欲が強く、怜司に女の噂が出るたび、黙っていられなかった。
すぐに嫉妬し、嫌われたのではないかと不安になっては、周りが見えなくなるほど取り乱していた。
怜司は沙耶を外へ出すと、探るような目で私を見た。
「美月、もう2日も経ってるんだぞ。いつまで怒ってるつもりだ?
100回目のプロポーズに顔を出さなかっただけだろ。そんなに怒ることか?家にまで帰ってこないなんて、さすがにやりすぎだろ。
何年一緒にいると思ってるんだ。最後にはちゃんとけじめをつけるって言っただろ。それでも俺を信じられないのか?」
ここ数日、体調が悪く、流動食でしのいでいた。
何を食べても吐いてしまっていたからだ。
体調のせいなのか、それとも怜司の言葉に心底うんざりしたせいなのか。急に吐き気がこみ上げ、私はその場で吐いてしまった。
怜司は顔を引きつらせ、歯を食いしばった。
「美月、何なんだよ。結局、俺と結婚したいのか、もうしたくないのか、どっちなんだ?」
私はティッシュを取り出し、口元を拭った。
「ちょっと気分が悪くなっただけ」
怜司は一瞬言葉を失い、苛立ったように背を向けた。
「もういい。勝手にしろ!」
その背中を見送っても、胸は少しも痛まなかった。
仕事の引き継ぎに追われ、気づけば夕方になっていた。
修一が私のデスクまで来て、リバイバル上映中の名作アニメ映画のチケットを一枚差し出した。
「怜司が口下手なのは、君も知ってるだろ。やることはめちゃくちゃだけど、君のことを大事に思ってるのは本当だ。
前からこの映画を見たいって言ってただろ。あいつ、それを覚えてて、すぐにチケットを取ったんだ。
今夜9時、映画館の入り口で待ってる。……行ってやってくれないか」
私はしばらく、そのチケットを見つめた。
これが怜司なりの仲直りの合図で、私への埋め合わせでもあることはわかっていた。
少し迷った末、私はチケットを受け取った。これくらい受け取る権利はあると思ったからだ。
夜9時、約束の時間ぴったりに映画館へ着いた。
帽子を目深にかぶり、マスクで顔を隠した怜司が、私の隣に現れた。
ところが、その後ろには、同じような格好で顔を隠した沙耶もいた。
私が沙耶に目を向けると、怜司はかすれた声で言った。
「俺たちの新作、もうすぐ公開だろ。宣伝には話題作りも必要なんだ」
私は気にすることもなく、そのまま中に入り、自分の席に着いた。
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