101回目の求婚より、私は別れを選んだ第1話
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私――水城美月(みずき みづき)は、国民的人気俳優の桐谷怜司(きりたに れいじ)と、ある約束を交わしていた。
SNSのライブ配信で、みんなが見ている前で彼に99回プロポーズすること。
そうすれば100回目のプロポーズで、彼が私との交際を公表してくれるはずだった。
ところが100回目のプロポーズの日、怜司は売り出し中の若手女優、篠宮沙耶(しのみや さや)とプライベートヨットに乗り、親しげに笑い合いながらキスシーンの練習をしていた。
私は、すっかり世間の笑いものになった。
後ろめたく思ったのか、怜司からLINEが届いた。
【101回目なら、今度こそみんなの前でちゃんと応える】
今度は、スーツをきっちり着こなした怜司が、私の配信に姿を現した。
けれど私は彼の目の前で、これまで怜司に宛てて書いた100通のプロポーズの手紙と、その中に忍ばせていた胃がんの診断書に火をつけた。
「101回目は、もうない」
* * *
私――水城美月(みずき みづき)は、国民的人気俳優の桐谷怜司(きりたに れいじ)と、ある約束を交わしていた。
SNSのライブ配信で、みんなが見ている前で彼に99回プロポーズすること。
そうすれば100回目のプロポーズで、彼が私との交際を公表してくれるはずだった。
ところが100回目のプロポーズの日、怜司は売り出し中の若手女優、篠宮沙耶(しのみや さや)とプライベートヨットに乗り、親しげに笑い合いながらキスシーンの練習をしていた。
私は、すっかり世間の笑いものになった。
後ろめたく思ったのか、怜司からLINEが届いた。
【101回目なら、今度こそみんなの前でちゃんと応える】
今度は、スーツをきっちり着こなした怜司が、私の配信に姿を現した。
けれど私は彼の目の前で、これまで怜司に宛てて書いた100通のプロポーズの手紙と、その中に忍ばせていた胃がんの診断書に火をつけた。
「101回目は、もうない」
……
怜司は、少しずつ燃えていく手紙を見つめていた。
次の瞬間、怜司はとっさに上着を脱ぎ、燃えている手紙にかぶせて火を消そうとした。
目を真っ赤にした怜司は、何万人もの視聴者が見守る中、白いバラの花びらに覆われたソファに私を押さえつけた。
「何のつもりだ?俺をからかってるのか?」
怜司のマネージャー、黒川修一(くろかわ しゅういち)が慌てて配信を切った。
私は何も答えなかった。
怜司との距離は、あまりにも近かった。
沙耶と同じ香水の匂いが、怜司の身体にかすかに残っているのがわかるほどだった。
ふと、大学を卒業したばかりの頃を思い出した。怜司はまだ撮影現場を転々とし、エキストラや端役をこなしていて、私の手を握ると真剣な顔で言った。
「美月、俺が主演男優賞を取ったら、結婚しよう」
ところが、怜司が本当に主演男優賞を取ると、今度は新しい条件を出してきた。
ライブ配信で、みんなの前で100回プロポーズすること。それをやり遂げたら、人気俳優という立場も世間の目も気にせず、私との交際を公表すると言ったのだ。
私が配信で必死にプロポーズを繰り返し、そのたびに笑いものになっている裏で、怜司は次々と若い恋人を連れ、世界各地の高級ホテルや豪華ヨットで夜を共にしていた。
それどころか、海外ならではの婚姻文化を体験してみたいというだけで結婚までし、ほどなく離婚したことさえある。
私が夢にまで見たものを、ほかの女たちはいつも、いとも簡単に手に入れてしまう。
そう考えると、自嘲めいた笑みが口元に浮かんだ。
「怜司、101回目はもうない。もう疲れたの。全部、終わりにしよう」
怜司は一瞬、呆気に取られたように私を見つめた。
やがて何かを察したのか、鼻で笑った。
「100回目に俺が来なかったから、腹いせに手紙を全部燃やしたってわけか?
あれだけ大勢の前で俺に恥をかかせておいて、婚約者なら俺の気持ちくらい考えろよ」
これで怜司は、望んでいた自由を手に入れられるはずなのに。
それなのに、どうして少しも肩の荷が下りたように見えないのだろう。
以前の私なら、こんなふうに責められた途端、必死になだめて、許してもらおうとしていただろう。
けれど今は、傷つきすぎたせいか何も感じず、言い返す気力すら湧かなかった。
それに、残された時間はもうわずかだ。これ以上、怜司のために使いたくはなかった。
「100回目のプロポーズはもう終わった。私たちも、これで終わり」
その言葉を聞くと、怜司はふっと表情を緩めた。どうせ本気じゃないと思っているのだろう。
「意地を張るなよ、美月。7年も一緒にいたんだぞ。本気で別れられるわけないだろ。
わかったよ。101回目こそ、ちゃんと応えてやる」
私は黙ったまま、昔、怜司が手作りしてくれた指輪を外し、彼の目の前でごみ箱に投げ捨てた。
それから怜司に背を向け、その場を立ち去った。
修一が言いにくそうに口を開いた。
「怜司、水城さんは今度こそ本気なんじゃないか?」
怜司は遠ざかっていく私の背中にちらりと目をやり、冷たく言った。
「3日もすれば、また泣きついてくるさ。
今までだってそうだっただろ。あいつは俺から離れられない」
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