10年越しの恋を捨てて、私は遠い町へ行く第2話
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愛されているか、そうでないかというものは、こんなにも分かりやすい。
私は事務所には戻らず、そのまま家へと帰った。
結婚が決まったばかりの頃、私は期待に胸を躍らせながら智哉と物件を見て回ったけれど、彼は私にカードを1枚放り投げ、「好きにしろ」とだけ言った。
リビングの壁には、私たちのウェディングフォトが飾られている。智哉に撮影に来てほしいと何度頼んだか、もう覚えていないが、彼は最後まで私と写真を撮ってはくれなかった。だから結局、撮影スタッフが智哉と体格の似た男性を用意してくれ、その人と撮った写真に智哉の顔を合成した。
荷物をまとめ終えた頃には、頭がぼんやりして、立っているのもつらくなった。また熱が出てきたようだ。
そのとき、スマホの画面に智哉の名前が表示された。
「取りに戻りたいものがあるんだけど、家にいるか?」
メッセージを眺めているうちに、いつの間にか眠ってしまった。
どれくらい経っただろう。鍵の開く音で目を覚ますと、リビングにオレンジ色の明かりが灯り、眩しさに目を細めた。
外の冷たい空気をまとったまま、片手には仕事用の鞄を提げた智哉が帰ってきた。
がらんとした部屋を見回した彼の視線が、壁から外して隅に立てかけておいたウェディングフォトで止まる。ほんのわずかに彼の眉が寄った。
私はいつもの癖で立ち上がろうとしたが、足に力が入らず、よろめいた。
智哉が反射的に腕を支えてくれたのだが、私の肌に触れた瞬間、彼はすぐに手を離した。
支えを失った私は、そのままソファに崩れ落ちる。
「ひどい顔してるな」
気遣うというより、ただ目についたことを口にしただけのような声だった。
私は彼と目を合わせないまま答える。「大丈夫、少し熱があるだけだから」
「なんで荷物なんかまとめてるんだ?」
「智哉、結婚式はやめよう」
さすがに予想していなかったらしく、智哉は数秒黙りこんだ。
「天音のことか?俺とあいつは、ただの先輩と後輩でしかない。
それに、天音は君とは違うんだ。14歳で一人で海外に出て、自分の夢も仕事への意欲もあるし、ましてや四六時中、恋愛のことばかり考えてるような女じゃない」
私は何も答えなかった。智哉もそれ以上話す気はないらしく、そのまま書斎へ入っていくと、昔のスケッチブックを1冊手に戻ってきた。
玄関を出る直前になって、ようやくこちらを見る。「天音が急ぎでこれを使いたいらしいから、届けてくる。具合が悪いなら病院へ行け。無理するなよ」
閉まったドアを見つめていると、喉の奥がひどく詰まった。泣きたいわけでもないのに、苦しくて……とても痛かった。
翌日、私は仕事を休み、不動産会社に連絡して家の査定に来てもらった。
「水瀬さん、この物件は立地も間取りもいいですし、内装もまだ新しいです。この金額で出したらかなり損をしますが、それでも売却希望ですか?」
「はい」
私は躊躇いなくその場で契約書に名前を書き入れる。
「できるだけ早く売ってください」
家を売りに出したその日のうちに、私は2つのスーツケースを持って家を出た。新しく住む場所を探す気にはなれず、職場の近くにあるビジネスホテルにひとまず部屋を取った。
狭い室内には、ベッドと小さな机、それにユニットバスがあるだけ。
窓の外は交通量の多い道路で、夜になっても車の音が途切れない。
それなのに、あれほど時間をかけて整えた新居より、ずっと落ち着けた。
ここには智哉の痕跡も、彼に愛されていると思い込むために積み上げてきた、くだらない幻想もない。
私はベッドに腰を下ろすと、今度は結婚式場へ電話をかけた。
「予約している結婚披露宴をキャンセルしたいのですが」
「水瀬様、挙式まであと10日となっておりますので、今からのキャンセルですと申込金はご返金できません。それでもよろしいでしょうか?」
「はい。お願いします」
電話を切り、狭いベッドの上で身体を丸めた。熱はまだ下がっていない。ぼんやりする頭で目を閉じると、ずっと見ないふりをしてきた記憶が、次から次へと蘇ってきた。
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