10年の青春恋愛劇。妻の私はただの脇役だった第3話
この話は約1604字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
「見てみて、美弥のブレスレット、凛のと同じじゃない?」
ソファの上で、颯太の体がこわばった。
「そんなはずないよ。だってあれは、颯太が凛ちゃんのために手編みした、世界に一つだけのものだよ」
「美弥が憧れて、勝手に真似をしたんじゃない?」
「ええっ、それはちょっと必死すぎじゃない?」
「本人に聞いてみれば?颯太くんなら分かるでしょう」
「ねえ颯太くん、実際どうなの?」
みんなが一斉に颯太へ視線を送った。
凛は今にも泣きそうな目で、期待に満ちた表情で彼を見つめていた。
颯太は顔を上げ、私の姿が目に入ると、慌てて視線を逸らした。
「美弥にはあげたことがない」
彼はそう答えた。
「どこで手に入れたのかは知らないけど、似てるだけだろ」
そう言って、颯太はかすかに笑った。その表情はどこか複雑だった。
「ただのブレスレットだ。もう美弥をいじめるなよ。みんな友達だろ?」
凛は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、颯太に身を寄せた。
「ほんとね。美弥ってかわいそう。颯太のこと10年もずっと追いかけても無駄だったなんて。真似しなきゃ気が済まないのも分かるわ。
いいでしょ、みんな。この話はおしまい」
周囲が笑い出した。
「分かった分かった、凛ちゃんの言う通りにしよう」
「ほんと、凛ってずっと昔から優しいよな」
「よし、もうこの話はしない」
「美弥ちゃん、もう諦めろよ」
同級生がからかうように私に言った。
私は唇を噛みしめ、あふれそうになる涙をこらえて、何度も頷いた。
「うん、そうする。もう忘れるよ」
……
この場の空気に耐えきれず、私は用事があると言ってパーティーを抜け出した。
帰路の途中で、颯太から何度か着信があったが、出る気になれなかった。
彼からメッセージが届いた。
【さっきのはただの冗談だ。あの大勢の中で凛に恥をかかせるわけにはいかないだろ?】
【帰ったらちゃんと説明する】
颯太が何について説明しようとしているのか、分からなかった。
王様ゲームのこと?ブレスレットのこと?それとも、私と彼はなにもなかったとみんなを騙したこと?
帰っても、颯太はきっと昔と同じように振る舞うだろう。
調子の良いことを言って誤魔化し、私を黙らせようとするに違いない。
しかし、もう10年も耐えてきた。
いくら彼が好きな私だって、さすがに現実が見えてきた。
スマホの待ち受けになっている、颯太と一緒に撮った高校時代の写真を見つめた。
校舎の前で撮ったものだ。
日差しの中、よそ見している颯太を私が見つめていた。
指でその姿をなぞり、写真のデータを消した。
引き出しからハサミを取り出し、10年間肌身離さず着けていたブレスレットを断ち切った。
もう、終わりにしよう。
私は涙を拭うと、評判の良い離婚専門の弁護士の連絡先を調べ始めた。
颯太が帰ってきた時、私は荷造りの真っ最中だった。
スーツケースを目にして、彼は一瞬立ち止まった。
「どこかへ行くのか?」
彼はソファに上着を放り投げ、何事もなかったかのように近づいてきた。
「今週は無理だぞ。一緒に旅行に行くなら来月にしよう。出した荷物を片付けろよ」
私は顔を上げなかった。
「関係ないでしょ?ひとりで行くの」
颯太の顔から笑みが消えた。
「どうしたんだよ?機嫌が悪いな」
彼はしゃがみこみ、私の手を取って、機嫌を窺うように言った。
「夜の話か?みんなあんな風に盛り上がってただろ。雰囲気を台無しにするわけにはいかないんだ。
そもそも俺たちはもう夫婦なんだし、深く考えるなよ。
それに土産があるんだ」
颯太はポケットからアクセサリーケースを取り出し、誇らしげに見せた。
「凛を送った時に見かけたんだ。最高級のブレスレットだ。着けてやろうか……」
「いらないわ」
私は颯太の言葉を遮った。
彼は戸惑い、珍しく動揺を見せた。
私は颯太を見つめ、驚くほど冷静に言った。
「颯太、離……」
私の言葉が終わるより早く、颯太が力任せに私の手首を掴んだ。
「そのブレスレットは?
俺がお前にやったブレスレットはどうした!?」
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