霧が眠らないうちに第2話
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霧子は車内に戻り、窓を閉じた。
腹心の志智(しち)がすぐにタブレットを差し出した。
「霧子様、露崎白雪は現在、神栖別荘地に住んでいます。警備は影護衛レベルで、外囲いに三組の隠密哨戒、死角のない監視網が張られております」
霧子はタブレットを受け取り、別荘の構造図を見て、口元がほんのりと緩んだ。
「彼女のために、本当に気を遣っているのね」
「また、行人様は最近、海外資産の処理を進めておりますが、その一部は既に露崎白雪の名義に移されております」
車内は短い沈黙に包まれた。エアコンの微かな風音だけが流れる。
しばらくして、彼女が口を開いた。
「……わかった」
彼女は一度目を閉じ、また開いた。
「影護衛に鬼という男がいたわね。イラス町の賭場で数十億の借金を抱えているそうよ」
志智がうなずく。
「はい。賭場側は、これ以上返済がなければ……家族全員の手足で払えと申し付けております」
彼女はタブレットを閉じて志智に返した。
「鬼に伝えなさい。私が露崎さんにお茶をおごりたいと。日時と場所は彼に決めさせて。うまくいけば、借金は私が肩代わりする。失敗すれば……彼は結果を知っているはずよ」
「かしこまりました、霧子様」
霧子は窓の外を見つめ、指先で結婚指輪をそっと擦った。
行人、私は言ったことを必ず実行する。
あなたが彼女を守れないなら、私が手を出すことを責めないでね。
翌朝早く、霧子は見知らぬ番号から時間と場所が書かれたメッセージを受け取った。
指定の場所に着くと、白雪が目を真っ赤に腫らして座っていた。
霧子は椅子を引き、彼女の向かいにゆったりと座った。
何も言わず、ただ静かな眼差しで、向かいで震える女を観察する。
白雪は確かに良い容貌をしている。清純で、儚げで、大樹に寄りかからなければ生きていけないネナシカズラの花のようだ。
どんな男が見ても保護欲をかき立てられるだろう。道理で行人が自制できなかったのも、無理はない。
「で、でたらめなことしないで!」
白雪は彼女の視線に居心地の悪さを覚え、気を強く持つように声を張り上げた。
「行人さんがすぐに来ます!私に手を出したら、彼が……!」
「彼がどうする?」
霧子が口を開いた。声には喜怒の感情が微塵も感じられない。
「私の足を折る?それとも、あの人たちを始末するように、私を切り刻む?」
白雪の青ざめた顔を見て、霧子は軽く笑った。
「露崎さん、あなたの行人さんは教えてくれなかったの?もしまた彼があなたと一緒にいるのを見かけたら、私はあなたを殺すって」
白雪は全身を激しく震わせ、唇を震わせながら、まともな言葉さえ出てこない。
霧子の噂を聞いたことがないわけではない。かつて死に物狂いで行人に近づこうとした女たちの末路は、どれもこれも悲惨なものだった。
「鬼」
霧子が横を向いて命じた。
「やりなさい」
しかし、彼女の側に立つ鬼は動かなかった。こめかみに細かい冷や汗が滲み、低い声で言った。
「奥様、人をあなたのご要望通りにお連れしました。しかし、これは行人様が自らしっかり護れとおっしゃった方です。手出しはできません」
「できない?」
霧子が繰り返した。口調には揺らぎさえなかった。
その言葉が終わるやいなや――
白雪も鬼も反応する間もなく、霧子は素早くテーブルの上にあった和菓子用のナイフを掴んだ!
次の瞬間、彼女は既に白雪の前に立ち、手を伸ばして彼女の顎を掴み、無理やり顔を上げさせた。
「あなたができないなら、私がやるわ」
霧子の視線は刃先を滑り降り、最後に白雪の恐怖で激しく上下する胸元に止まった。
「このナイフは切れ味が悪いから、ちょっと我慢してね」
彼女の手首がわずかに回った。鈍い刃先が、白雪の心臓の位置にある薄い生地に触れる。
「だって、私は騒がしいのがあまり好きじゃないから」
霧子が手を上げ、ナイフが皮膚に刺さろうとしたその時。
「綿霧子!」
荒々しい怒りを押し殺した低いうなりと、個室のドアを激しく蹴破る音が同時に轟いた!
バン!
銃声が密室の中で炸裂した!
霧子はただ、手首に激しい痛みと抗いがたい衝撃を感じただけだった。手は一瞬で痺れた。
ナイフは巨大な力で強く弾き飛ばされ、「ガチャン!」と遠くの壁にぶつかって床に落ちた。
霧子の腕全体が衝撃で痺れ、思わず半歩後退し、わずかに眉をひそめた。
ゆっくりと顔を向けると、行人が入り口に立っていた。険しい表情で銃を手に握ったまま。
いつも計り知れないあの瞳の奥には今、驚きと怒り、そして――恐怖の色が渦巻いていた。
行人の銃口は、霧子に向けられていた。
霧子が白雪を傷つけるのを止めるため、彼は霧子に向けて銃を撃ったのだ。
彼は数歩近づき、白雪の前に立ち、彼女を完全に後ろに隠した。
「綿霧子」
彼はフルネームで彼女を呼び、声には怒りを必死に抑えている。
「俺はお前に何と言った?」
霧子は行人越しに、彼の後ろから半分顔をのぞかせた白雪と一瞬目が合った。
白雪は行人の到着で気を強くしたようで、涙が止まらないのに、わずかに顎を上げてこちらを見返してきた。
「たくさん言ったわね」
霧子は行人の視線をまっすぐ受け止め、避けようとしなかった。
「どれのこと?絶対に私に背かないって?それとも……彼女に手を出すなって?」
行人の瞳の色が暗くなった。
「川悟の顔に免じて、彼女には手を出すな」
霧子は笑った。
「じゃあ、あなたが死人に借りがあるから、生きている人を裏切るの?半年前の神社で、あなたが私にした約束は、結局何だったの?
『神様の前に、この桐山行人はこの生涯、決して綿霧子に背かず』……この言葉は、もう忘れたの?」
彼女の手首は今もわずかに震えていた。既に赤く腫れ、細かな血の筋さえ滲んでいる。
行人は眉をひそめ、彼女の傷を見つめた。しばらく黙った末、口調を和らげた。
「霧子、やめてくれ。家に帰って話そう、いいか?」
「帰る?どの家に?あなたが一週間帰ってこなかった家?それとも……蚊一匹入れないほど警戒厳重な神栖別荘?」
行人は彼女の言葉に一瞬言葉を失い、表情をさらに曇らせた。
その時、白雪が彼の後ろで、またそっと彼の袖を引っ張った。声には、泣き声がにじんでいた。
「行人さん、帰りたい……怖い……」
行人はほとんど即座に選択を下した。
彼はかがみ込むと、全身を震わせる白雪を横抱きにし、振り返って去ろうとした。
霧子のそばを通り過ぎるとき、彼の足は一瞬たりとも止まらなかった。
ただ、横を向き、すぐ後ろに付き従う手下に冷たく言い渡した。
「奥様の手の手当てをさせろ。俺の許可がない限り、奥様を外出させるな。しっかり傷を癒やさせろ」
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