零時を過ぎたら返却拒否第2話
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空が暗くなってから、ようやく玄関のドアが開く音が聞こえてきた。
一樹がドアを開けて入ってきた。
シャツはきちんと整っているが、髪は湿っていた。そして彼から強い香水の匂いがする。
私は彼を睨みつけた。
彼は気まずそうに鼻に触れていた。
「まだ怒ってるのか?」
私が口を開く前に、友香が彼の後ろから顔を出した。
「責任持って、ちゃんと彼を返しにきたよ~」
そして彼女は笑顔で手のひらを広げた。
するとそこから結婚指輪が現れた。
「うっかりこれを返すのを忘れるところだったわ」
その瞬間、私の頭の中で張り詰めていた何かが、ぷつんと切れた。
私はその指輪を手に取った。
内側には私と一樹の名前が刻まれている。横には去年ぶつけた時にできた細かい傷がある。
「どうして外したの?」
一樹はゴクリと唾を飲み込んだ。
友香はドアの枠に寄りかかり、ゆったりと余裕たっぷりな様子でこう言った。
「だって、つけてたら邪魔なんだもん」
私は思い切り手を振り上げた。
その直後、一樹の頬を叩く、バシンッという重たい音が響いた。
それには友香もその場で呆然としていた。
私は手のひらが熱くじんじんしたが、それによって滑稽な夢からようやく目が覚めた気がした。
「あんた達、寝たの?」
一樹は顔を背けた。頬はすでに赤く腫れあがっている。
彼は私を見ようとしない。
私は気持ちが悪くなり、玄関の枠をつかんで胃の中のものを吐き出した。
その瞬間、一樹が私の体を支えようとした。
でも、私は彼の手を力いっぱい振り払った。
「触らないでよ」
「琴葉」
この時、彼の声はかなり緊張していた。
「昨日の夜は酒飲んで、その後気持ちもすっきりしなくて、俺……」
「服を脱ぐ時も、指輪を外す時も酔ってたって?」
私は指輪を彼に向かって投げつけた。
「帰ってくる前にシャワー浴びて、やっと酔いが醒めた?」
指輪は床を跳ねて、友香の足元に転がっていった。
彼女はそれをちらりと見て、微かに口角をにやりと上げた。
一樹の表情は暗くなった。
「やってしまったことだ。琴葉が俺を罵ろうが、殴ろうが、俺は受け入れる」
彼は眉間を揉みほぐした。
「だけど、俺たち結婚してもう5年なんだぞ。たった24時間の事でここまで騒ぐ気なのか?」
私は胸を締め付けられるように、その言葉に苦しくなった。
私は寝室に駆け込み、彼のシャツやスーツのズボンなどをクローゼットから一つずつ床に投げ捨てていった。
それと同時にハンガーの音が大きな音をたてた。
一樹が後から追って来て、私の手をつかんだ。
「琴葉!」
私は服を拾い上げて彼の顔に叩きつけた。
「他のところで寝れば!」
一樹は唇を噛みしめた。
「俺に怒りをぶつけるのは構わない。でも友香にまで怒るなよ。彼女も昨夜はかなり飲んでいたんだ」
私はゆっくりと動きを止めた。
「つまり酒をたくさん飲んでいても、あなたの指輪を取りあげるのは、ちゃんと忘れなかったんだ?」
部屋の入り口にいる友香は目を真っ赤にさせた。
「琴葉、私たち20年来の友達なのよ。本気でたった一人の男のために、私に背を向けるの?」
私は彼女の鞄をつかんで、勢いよく外に放り投げた。
中に入っていたファンデーションのコンパクトはパカッと開き、口紅は遠くのほうまで転がっていった。
「出ていって」
友香はドアの外に立ち、数秒私を睨みつけてから、突然冷ややかに笑った。
彼女は屈んで口紅を拾うと、顔をあげて一樹を見つめた。
「ねえ、一体いつまで隠しておく気?」
その言葉に一樹の顔色が一瞬にして変わった。
友香は口紅を鞄の中に戻した。
「あのね、昨日私があれを言い出す前から、私が何を借りる気なのか、一樹は知ってたんだよ」
その瞬間、その場の空気が凍り付いた。
私は一樹を睨みつけた。さっき激しく物を投げつけた時のじんじんとした指先の感覚が残っている。
「どういうこと?」
彼はギクリとした様子で、私から目をそらした。
「彼女は、琴葉が俺のことを本当に愛してるのか確かめるために、試そうとしてくれたんだ」
その言葉に私の胸は苦しくなった。
ドアの外にいる友香が軽蔑するように笑った。
「一樹、言葉を選ぶのが上手になったよね」
全身が硬直した。
「何を試すって?」
一樹は手をドアの枠の前にさし出して、明らかに不機嫌そうな顔をした。
「琴葉、お前は今興奮状態だろ、彼女の挑発する言葉は聞くな」
私は彼を睨みつけ、目が熱くなり痛みさえも感じた。
「あなた、彼女と寝たうえに、私が挑発に乗らないか心配しているわけ?」
彼の表情は一気にこわばった。
「昨晩の事なら、きちんと説明するから」
「だったら今すぐどういうことか言いなさいよ」
私は指を震わせながら、彼の手を押しのけた。
「どうして彼女が事前に、あなたが頼みを聞き入れると知っていたのかをね」
一樹は口を開き、手を伸ばして私に触れようとした。
私は思わず身を引き、彼の手を避けた。
その手は空中で止まり、ゆっくりと下におりていった。
友香はドアに寄りかかっていて、顔から少し血の気が引いていった。
「琴葉、本当に知りたいなら、彼にここ半年一体何を考えていたのか聞いたほうがいいわ。彼はね、なんだかあなたが彼のことなんてどうでもいいって思ってるように感じていたらしいの。昨日の夜は、最初はあなたが彼のことで慌てるかどうか見てみるつもりで」
その時、耳の奥がキーンと鳴った。
一樹が低い声で一喝した。
「おい友香、黙ってろ」
すると彼女は口角をにやりと上げ、その後突然、前屈みになり胃をぎゅっと押さえ込んだ。
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