零時を過ぎたら返却拒否第1話
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私と藤崎友香(ふじさき ゆか)は10歳から、誕生日にあるゲームをするようになった。
毎年誕生日には、相手から何か借りて、24時間経ったら返すというゲームだ。
10歳の誕生日、彼女は私がもらったばかりの白いスカートを選んだ。
18歳の誕生日、父親がくれたカメラを。
25歳の誕生日、私の車を借りていって、零時前にやっと嬉しそうに笑いながら返しに来た。
この20年間、私は彼女が何を借りようと、一度も断わったことはなかった。
そして30歳の誕生日の日、彼女はシャンパンを一杯飲み干し、テーブルに山のように積み上げられたプレゼント越しに、私の隣にいる東一樹(あずま いつき)を指さした。
「今年は何もいらない」
そう言うと、彼女は顔を傾けて、酔って焦点が定まらない目つきで、またこう言った。
「ねえ、琴葉(ことは)、今年は旦那さんを一日貸してよ」
* * *
テーブルを囲んでみんな大笑いした。
誰かがテーブルを叩きながら大きな声を出した。
「藤崎さん、今年、そこまでやるか?」
そしてスマホをあげて、カメラを私たちのほうへ向けてくる人もいた。
私は今回の誕生日で初めて顔を曇らせた。
一樹はこの時、大皿に盛られたおかずを私の取り皿に分けてくれているところで、その手を空中でピタリと止めた。彼はまさか友香から自分のほうにふられるとは思ってもいなかったようだ。
友香はテーブルに肘をつき、頬に手をあてて、私のほうへウインクした。
「ね、24時間だけ。前はカメラに車に、いろいろ借りてきたけど一度も嫌がったことないじゃない」
私は目の前の、一樹がおかずを盛ってくれた皿を彼のほうへ押しやり、友香のほうを見た。
「貸さない」
その瞬間、個室の笑い声は突然消えた。
友香は少し驚いて、次に口角を上げた。
「なによ、独占欲丸出しじゃないの」
「彼は人よ、遊びでそんなことできないわ」
私は厳しい口調で返した。
すると友香は私を通り越して一樹のほうへ視線を向けた。
「じゃ、一樹君がいいって言ったら?」
私は心が沈んだ。
一樹は友香に冗談を言うなと怒ることはなかった。
彼は箸を置くと、私を見た。
「一日、彼女に付き合うだけだろう」
私は聞き間違いかと思った。
「今なんて言ったの?」
一樹は眉をひそめた。
「琴葉、ただの誕生日でやってるゲームなんだろう。そんなこの場が白けるようなこと言うなよ」
その言葉に私は頭にきた。
「さっき貸さないってはっきり言ったわよね。場が白けようが私にはどうでもいいわ」
友香の顔から笑みが少し消えた。
「もういい、他のものにする」
彼女はそう言うと、テーブルの上に置いてある車の鍵を取ろうと手を伸ばした。
それよりも前に、一樹が鍵を手にとり、立ち上がってコートをとった。
「行こう」
私はその瞬間、勢いよく彼の手首をつかんだ。
勢いよく立ち上がったせいで、椅子がガタンッと音をたてて激しく倒れた。
「ちょっと一樹、それ、どういう意味?」
血の気が引くほど力を込めて握った私の手を彼は見下ろした。
「彼女が毎年の誕生日に借りる時は、君も喜んでオッケーしてたじゃないか。今日は彼女の誕生日のお祝いとして付き合うよ」
「私と彼女の誕生日は一緒よ」
私は声を震わせた。
「それなのに、あなたは彼女を祝ってやって、私はここに置き去り?」
すると一樹の表情が微かに曇った。
友香がそっと彼の服を引っ張った。
「琴葉、本気で怒ってるみたいだから、一樹君はここに残って」
彼を気遣うようなその言葉がナイフになって、私の心を抉るかのようだった。
しかし一樹は眉間に皺を寄せた。
「琴葉は甘やかされ過ぎて、わがままになってしまったんだよ」
彼は私の手を引き剥がしていった。
「明日には帰るから」
その言葉の後、私の手から彼が離れていった。
私は彼と友香が肩を並べて個室を出ていくのを見つめていた。ドアが閉まる直前、友香が振り向いて声を出さずに唇を動かした。
「にじゅうよじかん」
個室にいた人は誰も笑えずにいた。
私は鞄を手にとり急いで二人を追いかけたが、エレベーターがちょうど目の前で閉じた。
ドアが閉じる寸前のかすかな隙間から、一樹が友香の肩紐に絡まった長い髪をはずしているのが見えた。
彼の慣れた手つきに、私は気分が悪くなった。
家に帰ると、スマホをテーブルの上に放り投げ、30分耐えたが、やはり一樹に電話をかけることにした。
3回呼び出し音が鳴った。
すると友香が出た。
電話越しにさわがしい音楽が聞こえてきた。それに男女の笑い声が混じっている。
「琴葉?」
私はスマホをぎゅっと握りしめた。
「一樹にかわって」
友香は笑い声をあげた。
「借りたものは、約束の時間まで返せませーん」
「彼と電話をかわってってば」
電話の向こうから、うっすらと一樹の声が聞こえてきた。
しかし友香はスマホをさらに自分の耳元に近づけた。
「私たち、ルールを決めてたでしょ?」
その言葉に、私は声を詰まらせた。
「今のはルール違反よ」
そして電話は切られた。
私はソファで空が白むまで過ごした。
一樹は帰ってこなかったし、メッセージ一つ寄越さなかった。
私は二回顔を洗いに行った。鏡に映る自分の目は真っ赤に腫れていた。
結婚して5年、彼は出張に行っても到着したら、まずは私に連絡してくれていたというのに、今同じ街にいながら、私は彼の居場所すら分からない。
私はもう彼に電話をかけなかった。
彼自身が自分を貸し出したのだ。彼がどんな顔をして帰ってくるか、私は待つことにした。
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