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雪が舞い、あの少年はもういない第2話

この話は約1980字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

スープを飲む胡桃の横顔を見ていると、なんだかぼうっとしてしまった。

渉はこれまでどんなに女遊びが激しくても、分別はあった。浮気相手を私の目の前に連れてくるようなことは、一度もなかったのに。

でも今回は、胡桃のお腹の子どものために、その一線を越えてしまった。

渉は婚外子をあれほど憎んでいた。なのに胡桃がずる賢く妊娠すると、まるで宝物みたいに扱っている。

私になかなか子どもができないからだろうか。渉は少し視線を泳がせながら、探るように言った。

「玲奈、この子には斉藤家の血が流れている。生まれてきたら、お前をママと呼ばせて、斉藤家の正式な跡継ぎにするのはどうかな?」

自分の子どもに、自分と同じ道を歩ませたくない。そのために、私のプライドを犠牲にしようというのだ。

私は微笑んだ。「いいわよ」

私が思ったよりあっさり頷いたので、渉はあっけにとられた顔をしていた。でも、私の心は少しも揺れなかった。

だって、あと3日もすれば、「斉藤夫人」の座なんて誰かにくれてやるつもりだもの。今さら誰かの都合のいい母親役なんて、どうでもよかった。

自分の子どもが斉藤家の跡継ぎになると知った胡桃は、ますます付け上がった。

彼女は庭のハナカイドウの木を指さして、甘ったるい声で言った。「渉さん、私はハナカイドウって好きじゃない。バラの花がいいな」

それを聞くと、渉は一声かけて、すぐに使用人にハナカイドウの木を切り倒させ、バラを植えさせた。

あのハナカイドウは、私の両親が亡くなった年に、渉が一緒に植えてくれた木だった。

彼は言った。「玲奈、ハナカイドウが咲けば、毎年穏やかに過ごせるよ。これからは俺がお前を守る。もう一人じゃない」って。

チェーンソーの耳障りな音が響き渡り、ハナカイドウの木は大きな音を立てて倒れた。

私は二階の窓辺に立ち、地面に散らばった枝や葉を眺めていた。心の中に残っていた最後の未練も、やがて静かに消えていった。

渉が二階に上がってきた時、ちょうど窓辺に立つ私を見つけた。

私の後ろ姿があまりに寂しげだったからか、彼は珍しく罪悪感を覚えたようだった。そして、後ろから私を抱きしめた。

「玲奈、たかが木一本じゃないか。そんなに好きなら、今度、広い庭のある別荘でも買って、ハナカイドウでいっぱいにしてやるよ」

渉の腕の中は昔みたいに温かかった。でも、その体からは胡桃がいつもつけている、甘ったるい香水の匂いがした。

私はそっとその腕から抜け出すと、彼に向き直って言った。「渉、あなたはこの木をいつ植えたか覚えてる?」

渉は一瞬、視線をそらした。明らかに、とっくに忘れている。

「昔のことなんて、今さらどうでもいいだろう?こんなに忙しいのに、そんな細かいこといちいち覚えてられるか」

彼は少し苛立ったように話題を変えた。「そうだ、今夜チャリティーパーティーがあるけど、お前は来なくていい。胡桃を連れて行くから」

あまりに堂々と言ってのける渉を見て、なんだかおかしくなってきた。

「正式な立場もない愛人とその隠し子をあんな場所に連れて行って……斉藤家の顔に泥を塗るつもり?」

渉は顔をこわばらせ、冷たい声で言った。「胡桃のお腹にいるのは斉藤家の長男だ。隠し子なんかじゃない!」

「隠し子」という言葉に、彼は明らかにカッとなったようだった。

渉の母親は、私の母の親友だった。彼女は昔、渉の父親に騙されて、日の目を見ない愛人になってしまった。

その後、本妻からの嫌がらせを避けるため、幼い渉を江川市に預け、最後は心を病んで亡くなったそうだ。

渉は、母親を無念の死に追いやった斉藤家を憎んでいた。そして、「婚外子」というレッテルを心の底から憎んでいた。

でも、今の彼は、自分の父親とまったく同じことをしている。

「だから何?」

私は冷静に渉を見つめた。

「自分の子どもを婚外子にしたくないからって、その母親を私の目の前で威張らせるの?

渉、口ではあなたの父を憎んでるって言うけど、今の自分を見て。あの人との違いなんて、どこにもないじゃない」

パシン。

乾いた平手打ちの音が、部屋に響き渡った。

渉は手を引っ込めた。彼の胸は激しく上下し、その目には怒りの後の戸惑いが浮かんでいた。

自分で私に手を上げたことが、信じられないようだった。

「黙れ!俺を、あの男と一緒にするな!」

渉はヒステリックに叫んだ。「俺は自分の子どもを守っているんだ!あの子に、俺と同じ道を歩ませるわけにはいかないんだ!」

じんじんと痺れる頬を押さえると、口の中に血の味が少しだけ広がった。

渉はもう私を見ようともせず、ドアを乱暴に閉めて出て行った。

すぐに階下から、胡桃の甘ったるい慰めの声と、それに応える渉の、だんだん落ち着いていく低い声が聞こえてきた。

私は鏡の前に立ち、赤くなった頬の跡を見て、氷をそっと当てた。

頬の赤みは少しずつ引いていった。でも、目の縁はどんどん赤くなっていった。

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