雨の記憶と、枯れた花の七年目第2話
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揉め事どころの話じゃない。
私と蒼介の別れ際は、泥沼の殺し合いのようなものだった。
もっとも、出会った時だって似たようなものだ。二人とも薄汚れていて、惨めだった。
蒼介は継母に金を盗んだと因縁をつけられ、殴られて家を追い出された。
私はギャンブル狂いの父に殴られ、同じように放り出された。
行き場のない私たちは薄汚れた指先を、同時に作り立てのからあげの弁当に伸ばした。
「俺のだ!」
「私のよ!」
二人とも弁当の容器を押さえて、一歩も譲らない。
揉み合っているうちにからあげは地面に転がり落ち、騒ぎを聞きつけた店長の田村(たむら)さんが怒鳴り声を上げて追いかけてきた。
私たちは肝を冷やし、争うのも忘れて地面のからあげをひっ掴むと、命からがら逃げ出した。
結局、捕まったけれど。
田村さんは、弁当の代金を働いて返せと、私たちを店に残らせた。
その日の深夜、私たちは店の電球の下、並んで座り、不器用な手つきで揚げ物の作り方を教わった。
どれほどの時間、慌ただしく動き回っていたのかわからなかった。蒼介は私がやっと作り出したものを見て、ふんと鼻で笑った。
「焦げすぎだよ!」
私は彼を睨みつけ、遠慮なく言い返した。
「お互い様よ」
その瞬間、お互いの顔にある青あざを見合わせ、私たちは同時に吹き出した。
それから、私たちは少しずつ距離を縮めていった。
共に街をうろつき、一つのパンを分け合い、万引きした安酒を回し飲みし、橋の下で古新聞にくるまって震えながら眠った。
互いの底辺時代を知る唯一の証人であり、この冷たい世界で唯一、傷を舐め合える共犯者だった。
彼は拾ったオンボロカメラで、私に初めての写真を撮ってくれた。
ピントも合っていない、酷い写真だったけれど、こう言って笑った。
「穂香、俺が立派なカメラマンになったら、お前をモデルにした写真展を開いてやるからな!」
私はバイトで貯めたなけなしの金をすべて蒼介に渡し、彼が夢見ていた写真教室に通えるように支えた。
泥の底から二人で這い上がってきた私たちが持っていたのは、互いへの思いだけだった。
だからこそ、後に彼が暗室で、別の女と肌を重ねているのを目撃した時、私は思い知ったのだ。
年少の頃の思いなんてものは、ガラス玉みたいに綺麗だけど、あまりにも呆気なく砕け散るものなのだ。
地元の友人が、目を赤くしていた。
彼女は私を見ることもできず、悔恨に満ちた声でうつむいた。
「私のせいよ。私が清香を、あんたたちに引き合わせなければ……」
西園寺清香(さいおんじ さやか)。
七年前、その名を聞くだけで私の心は憎悪で満たされていた。
けれど今の私は、窓の外を流れるネオンを眺めながら、ただ凪いだ海のように平穏だった。
「あなたのせいじゃないわ」
私は彼女の手を軽く叩いて慰めた。
「根っから腐った人間は、どうしようもないのよ」
高校時代、私と蒼介が困窮していたことは誰もが知っていた。
友人は私たちに内緒で、ネットで見つけた奨学金に応募してくれていた。
その結果、西園寺財団が私たちを支援することになったのだ。
そして、その縁で清香もまた、私たちの高校に転校してきた。
あれは十六歳の時のことだ。
転校初日、清香は教壇に立ち、自己紹介をした。
「西園寺清香です。この学校に寄付してる西園寺財団は、うちの財団なのです」
彼女は軽蔑に満ちた視線で教室を見回し、最後には私と蒼介に目を留めた。
「ふうん、こんな顔してたんだね」
悪夢はそこから始まった。
彼女は私の机にインクをぶちまけ、蒼介のノートに「貧乏人」と書き殴り、私たちが物を盗んだという噂を流した。
一番酷かったのは、彼女が自分の高級腕時計を蒼介の鞄に入れ、先生を連れてきて「現行犯」として彼を吊し上げた時だ。
「あなたたちみたいな底辺は、私の時計の部品一つだって弁償できないのよ。
それなのにパパったら、あなたたちを見習えと言っている……本当に笑わせるわ」
そんな理不尽な嫌がらせが、丸一年も続いた。
そして、あの夜が訪れた。
清香は私たちを廃校舎の理科室に呼び出し、外から鍵をかけて火を放ったのだ。
黒煙の中、蒼介と私は必死に庇い合ったが、結局、焼け落ちてきた瓦礫が私の肩を直撃した。
事件後、清香は強制的に転校させられた。
友人は呆気に取られた顔で、絞り出すように言った。
「つまり……あの男は、かつてあんたたちを散々いじめた女と浮気したってこと?
あいつ、本当に頭がおかしいんじゃないの?」
私は笑った。
「七年前、私も彼に同じことを聞いたわ」
けれど、蒼介は数秒の沈黙の後、こう言ったのだ。
「愛するってことは、その人の一番汚い部分も含めて受け入れるってことだ。
俺たちなら、それが一番よく分かるはずだろう?」
彼はさらに、清香と私たちは同類だと言った。
あのいじめは彼女なりの構ってほしいというサインであり、彼女もまた私たちと同じ、世界に愛されなかった人間なのだと。
笑わせる。
あの日、肩に受けた傷は一生消えない後遺症となり、私は医師になるという夢を絶たれた。
それなのに、蒼介は「加害者も俺らと同じく愛されるべき存在だ」と言い放ったのだ。
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