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雨の記憶と、枯れた花の七年目第1話

この話は約1995字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

私の名前は柏木穂香(かしわぎ ほのか)。桐島蒼介(きりしま そうすけ)と離婚して七年目。

久しぶりに戻った故郷で、私はカメラを首から下げた小さな男の子に出会った。

その子は、ずいぶんとませてる口調でこう言った。

「お姉さん、僕のパパは有名なカメラマンなんだよ。

僕も将来絶対に、パパみたいにカメラマンなるから。

今、もしモデルになってくれたら、お姉さんは僕のスポンサー様ってことだよ」

思わず吹き出してしまい、私はその申し出を引き受けた。

撮影の途中、男の子がいきなり興奮して私の背後に向けて手を振り、「パパ!」と叫んだ。

つられて振り返り、私は視線の先にいた人物を見て凍りついた。

蒼介も、その場に立ち尽くしていた。

気まずい沈黙が流れた。

それでも私は何食わぬ顔で、男の子が満足するまで撮影に付き合ってあげた。

別れ際、ずっと黙り込んでいた蒼介が突然、口を開いた。

「穂香……お前がもう二度と、この町には戻らないと思っていた」

私は薄く笑って答えた。

「昔の話よ。もうとっくに過ぎたことだわ」

* * *

私の名前は柏木穂香(かしわぎ ほのか)。桐島蒼介(きりしま そうすけ)と離婚して七年目。

久しぶりに戻った故郷で、私はカメラを首から下げた小さな男の子に出会った。

その子は、ずいぶんとませてる口調でこう言った。

「お姉さん、僕のパパは有名なカメラマンなんだよ。

僕も将来絶対に、パパみたいにカメラマンなるから。

今、もしモデルになってくれたら、お姉さんは僕のスポンサー様ってことだよ」

思わず吹き出してしまい、私はその申し出を引き受けた。

撮影の途中、男の子がいきなり興奮して私の背後に向けて手を振り、「パパ!」と叫んだ。

つられて振り返り、私は視線の先にいた人物を見て凍りついた。

蒼介も、その場に立ち尽くしていた。

気まずい沈黙が流れた。

それでも私は何食わぬ顔で、男の子が満足するまで撮影に付き合ってあげた。

別れ際、ずっと黙り込んでいた蒼介が突然、口を開いた。

「穂香……お前がもう二度と、この町には戻らないと思っていた」

私は薄く笑って答えた。

「昔の話よ。もうとっくに過ぎたことだわ」

……

蒼介の息子はおしゃべりだ。

聞いてもいないのに、ペラペラと自分の家の事情を洗いざらい話してくる。

パパの写真は国際的な賞をたくさん取っているとか。

ママの写真は全部パパが撮っていて、専用の部屋もあるとか。

自分は七歳で、妹が欲しいというのが一番の願いだとか、ママもそれを約束してくれただとか。

そこまで話したところで、蒼介が不機嫌そうに息子の口を塞いだ。

「悪い、穂香。この子、ちょっとおしゃべりが過ぎて」

私は目の前で無邪気に笑う子供を見下ろし、少し呆然とした。

あの時、私が取り乱して暴れたせいで流産しかけた、あの小さな命。

七年の時を経て、こんなにも活発な子供に育っていたなんて。

時間は本当に不思議なものだ。

蒼介は子供を連れて立ち去ろうとした。

数歩進んだところで、彼は急に振り返った。その声は少し掠れていた。

「穂香、この後どこ行くんだ?もしかしたら同じ方向かもしれない……」

「いえ、方向は違うわ」

彼は呆然と私を見つめたまま、言葉を失っていた。

沈黙を破ったのは、彼の服の裾を引っ張る子供の声だった。

「パパ、早くスマホ貸してよ!ママにビデオ通話して、僕が撮った写真を見せるんだから!」

我に返った蒼介は、慌てた様子で鞄からスマホを取り出した。

彼が再び顔を上げた時、私はもう遠くまで歩き出していた。

背後で私の名前を呼ぶ声が微かに聞こえたような気がしたが、振り返らなかった。

数時間後、私は友人たちと食事をしていた。

突然、店員が入ってきて、封筒をテーブルに置いた。

「失礼します、柏木様はいらっしゃいますか?

表にいたお子さんから、これを渡してくれと頼まれまして。

午後に撮ったお写真だそうです」

同席していた友人の一人が、昼間の出来事を聞いて面白がり、真っ先に封筒を手に取った。

「どれどれ?うちの穂香ちゃんがどう撮れてるか!拝見拝見!」

彼女は写真を取り出し、感心したように声を上げた。

「へえ、構図も面白いし、光の使い方もなかなかじゃない」

しかし、ある一枚をめくった瞬間、彼女の声がピタリと止まった。

写真を掴む指が止まり、彼女は躊躇いがちにその一枚を私の前に差し出した。

「これ……子供が撮った写真じゃないわよね」

私は視線を落とした。

見覚えのある作風だ。

それを見た瞬間、喉の奥が引き攣ったように息が詰まった。

事情を知っている地元の友人もすぐに気づいたようで、素早く写真を奪い取ると、部屋の隅へ乱暴に投げ捨てた。

「ッ……縁起でもない!」

盛り上がっていた空気が、一瞬にして凍りついた。

私はふっと笑って、沈黙を破った。

「全部、過去のことだから」

そして、事情が飲み込めず戸惑っている友人を見て、淡々と説明した。

「さっき写真を撮ってくれた子は……元夫の子供なの。

離婚する時、ちょっとばかり揉めてね」

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