離婚理由は誰も私の好物を覚えていなかったから第2話
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私は玄関に立ったまま、しばらく家の中を眺めていた。
やがて靴を履き替えてキッチンへ行き、ネギをたっぷりのせた冷奴を手に取る。
ネギはすっかり乾燥して、色がくすんでいた。
10品作った中で、唯一、自分が食べたくて作った料理。
しばらく見つめたあと、私は残りの料理と一緒にゴミ箱へ捨てた。
後片づけの最中、玄関の外から直也の弾んだ声が聞こえてきた。
「パパ、珠希姉ちゃん、今日はすっごく楽しかったね!」
ドアが開き、大きなウルトラマンのおもちゃを抱えた直也が勢いよく飛び込んでくる。
その後ろから、いくつもの買い物袋を提げた翔吾と、ウサギのぬいぐるみを抱えた珠希が入ってきた。
「直也くん、そんなに走ったら転んじゃうよ」
靴を脱いでいた翔吾は、ダイニングにいる私に気づくと一瞬驚いた顔をした。
「帰ってたのか?」
私は何も答えない。
それでも、翔吾も特に気に留める様子はなく、買い物袋をソファに置きながら何気なく言った。
「少し遅くなっちゃってさ。直也が楽しそうだったから、そのままショッピングモールにも寄ってきたんだ」
すると直也が珠希の手を引き、嬉しそうに私のところへやって来た。
「ママ、見て!珠希姉ちゃんのブレスレット、綺麗でしょ?パパと一緒に選んだんだよ」
ブレスレットに散りばめられた小さなダイヤが、照明を受けてきらきらと輝いている。
珠希は少し申し訳なさそうに声を落とした。
「社長が、直也くんの誕生日に付き合ったお礼に、と。でも、本当にこんなことしていただかなくてもよかったんです。直也くんはすごくかわいいですし、私も大好きなので」
翔吾はそんな珠希を見て、穏やかな口調で返した。
「それとこれとは別だよ。それに、一日中付き合ってもらったんだから、君も疲れただろ?」
翔吾はそれから何かを思い出したように、ポケットから小さな箱を取り出した。
思わず私の手が止まる。
箱の中に入っていたのは、ブローチだった。
「これは母さんに。少し前に、ストールに合わせるブローチが欲しいって言ってたからさ」
私は黙って翔吾を見た。
そこでようやく気づいたのか、翔吾は少し気まずそうな顔をする。
「今日は人も多かったし、ゆっくり見てる時間もなくて……君のは忘れちゃったよ」
忘れた。
しかし、それを聞いても、不思議なくらい驚きはなかった。
6年前なら、どれだけ仕事が長引いて帰りが深夜になっても、翔吾は私の好きなモンブランを買ってきてくれた。
「ほかの人はどうでもいい。でも、清佳にだけは、ちゃんと買って帰らないとな」あの頃は、そう言っていたのに。
今はみんなに何かを買ってあげ、そこにいなかった和子の分まで用意している。
何もないのは、私だけ。
直也が駆けてきて、翔吾を見上げる。
「パパ、珠希姉ちゃんのウサギ、僕のお部屋に置いてもいい?」
翔吾は笑った。「それは珠希姉ちゃんのだから、珠希姉ちゃんに聞かないとな」
ドアのそばにいた珠希が、優しく微笑む。
「もちろんいいよ。直也くんの好きなところに置いて」
珠希が優しく答えると、直也は歓声を上げた。
そんな3人を見ていると、キッチンの明かりが妙にまぶしく感じた。
私がずっと黙っていることに苛立ってきたのか、翔吾が口を開く。
「清佳、今日は一体どうしたんだ?直也の誕生日なのに勝手に出ていったと思ったら、帰ってきてからもずっとそんな顔して。客の珠希が気まずくなるだろ」
「社長、私は大丈夫ですから。清佳さんも、きっと疲れてるでしょうから」
珠希が慌てて間に入ったが、翔吾は眉をひそめた。「何に疲れるんだ?一日中家にいて、仕事だってしてないのに」
皿を洗っていた私の手が止まった。
流れ続ける水が皿に当たり、跳ねた雫が袖を濡らす。
「今日の料理、朝10時から14時までずっと作ってたんだけど」
翔吾が一瞬、言葉に詰まった。
すると横にいた直也が、不満そうに口を尖らせる。「でも、ママの料理にはネギが入ってたじゃん。珠希姉ちゃん、食べられないのに」
翔吾もすぐに続けた。
「ほら、直也だって珠希がネギを食べられないことを知ってる」
「じゃあ翔吾は、私がネギを好きなこと知ってる?」
空気が一瞬で静まり返った。
翔吾はわずかに眉を寄せ、直也もきょとんと目を瞬かせている。
誰からも答えは返ってこない。
私は洗った皿を食器棚へ戻した。
「いいよ。どうせ大したことじゃないから」
……
翌朝、私が起きたときには、翔吾はもう会社へ出ていた。
ダイニングへ行くと直也が朝食を食べていて、なぜか珠希までいた。
私の姿を見るなり、すぐに立ち上がった珠希。
「清佳さん、すみません。社長が朝から急な会議に入ってしまって、資料を取りに来るよう頼まれたんです」
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