離婚後、息子が名家の唯一の継承者になった第2話
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時雄は面倒くさそうにズボンを穿きながら、私のあごを掴んで言った。
「真由、自分の立場をわかっているのか?江口家に入れたのは、お前が妊娠したからだ。
それじゃなきゃ、お前なんか眼中にない!」
その瞬間、私の心の中で何かが完全に壊れた。
それから私は、もう怒ったり、騒いだりしなかった。
彼が女性を連れて帰ってきても、自ら避けるようになった。
それは運命を受け入れたわけじゃない。
ただ、ゲームのルールが突然わかったからだ。
私は腰をかがめ、玉実の柔らかな額に軽くキスをした。
彼からはほのかなミルクの香りがする。これはこの家で、私が唯一嗅いでいいと思える清潔な香りだ。
私は彼の耳元で囁くように言った。
「大丈夫、焦らなくていいよ。
この江口家の全て、いずれ私たちのものになるんだ」
時雄の両親の70歳の誕生日会は、J市で最も高級なホテルの最上階で開かれた。
私は時雄が指定したシャンパン色のドレスを着ていた。
本来なら時雄の隣に立つべきだったのに、雨音にその位置を取られた。
彼女は私が買いたかったが、買えなかった白いドレスを着て会場に入ると、全員の目が彼女に集中した。
「時雄、遅れてごめんなさい」彼女の声は甘ったるく響いた。
時雄は彼女の顔にキスをして言った。「急ぐことはないさ。主役はいつも最後に登場するものだ」
時雄の両親は眉をひそめたが、何も言わなかった。
数人の親戚たちは目を合わせ、嘲笑や冷笑を交わしていた。
私は長テーブルの一番端に座らされ、何の縁もない遠い親戚たちと一緒にいた。
時間が少し経つと、雨音がグラスを持ってやってきた。
その声は澄んでいて、会場全体が聞こえるほどだった。
「真由さん、お水を一杯いただけますか?気分が悪いんです」
全員が私を見つめた。
時雄はステーキを切りながら、顔を上げもしなかった。
私は手に持っていたワイングラスを置いて言った。「後ろにウェイターがいますよ」
彼女の笑顔が少し固まったが、すぐに元に戻った。「あなたが注いだお水が欲しいんです」
私は冷静に言った。「飲みたいなら、彼氏に頼んだらどう?」
何人かの人が小さく笑った。
雨音が瞬く間に涙を浮かべた。
「時雄……」彼女は首座に向き、声を震わせながら呼んだ。
時雄はようやく立ち上がった。「真由、お水を注ぐくらいで、こんなケチくさいこと言うのか?」
私は彼の冷たい目を見て立ち上がり、水を注いで彼女に差し出した。
雨音はグラスを取らず、涙がこぼれた。「時雄、ただ真由さんと親しくなりたかっただけなのに……」
時雄の顔色が完全に曇った。「謝れ」
会場は静まり返った。
姑の江口正子(えぐち まさこ)は顔をそむけ、舅の江口繁夫(えぐち しげお)はため息をついた。
私はその場に立ち尽くしていた。
周りの視線が私に集まった。そこには同情、嘲笑、軽蔑、そして見世物を見るような目線が交じっていた。
1年前の今日、まったく同じ場所で、時雄が私の手を取って全員に紹介していたことを思い出した。
「こちらが俺の妻、江口真由だ」
そのとき、彼の目にはわずかに誇りが宿っていた。
「あなたのお願いを断って、ごめんなさい」
その晩の宴会は、楽しいものとは程遠く終わった。
深夜、時雄は酔っ払って帰宅し、離婚協議書をテーブルに叩きつけた。
彼はタバコに火をつけて言った。「雨音は結婚したい。彼女は大変だから、そう言うのも無理はない。署名してくれ」
私はその書類を見て、プロポーズの夜のことを思い出した。
彼は私の家の下で、バラをハート型に並べ、震える手で指輪を持っていた。
「真由、結婚してくれ。俺は一生お前を大切にする」
その時、たとえそれが一瞬だけでも、彼の瞳の中には真摯さがあった。
「玉実は私が引き取る」私は交渉に臨んだ。
時雄は冷たい笑みを浮かべて言った。「お前が養えないだろ」
私は立ち上がり、彼よりもかなり低かったが、それでも背筋をピンと伸ばした。
「それなら法廷で会おう」
時雄の笑顔は消えた。
彼は私をじっと見つめ、その目の中に複雑な感情を浮かべたが、最後には軽蔑の笑みを浮かべた。
「わかった。お前が恥をかきたいなら、その望みを叶えてやる。
お前は俺に勝てない。江口家の弁護士チームに、ただの医者のお前が立ち向かえるわけがない」
ドアが閉まった。
外では雨が降り始めた。ガラスに叩きつけられて、パチパチという音を立てていた。
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