離婚届にサインした時、17歳の夫が突然現れた第1話
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東都の上流階級には、ある共通の秘密があった。
野口家の御曹司である野口航(のぐち こう)は、妻を何よりも溺愛している一方で、外では女遊びを楽しむ悪癖があった。
愛人たちには望むものを何でも買い与えるほど甘やかしていたが、航の中では唯一、絶対に越えてはならない一線があった。
それは、愛人たちが決して妻の前に姿を現してはいけないことだ。
その妻は、航が10年もの間愛し続け、命を削るような思いをしてようやく娶った女性だということは、誰もが知っていた。
もし妻が死ねば、自分はもう生きていけないと公言したほどだった。
しかし、今回の愛人は身の程知らずで、航の寵愛を盾にして私を挑発してきた。
相手は私にずらりと並べられたコンドームの写真を送りつけ、そこに航の安らかな寝顔まで添えてきた。
【蛍(ほたる)さん、ストロベリー味のスパイラルタイプのゴムは刺激が強すぎて、私、一晩中喘いじゃいました。野口社長は奥さんと使ったことありますか?】
その瞬間、私はようやく悟った。かつてその瞳にも心にも私しか映していなかったあの少年は、愛は私に与え、欲望は別の女たちに注いでいたのだと。
私はそれらの写真を見つめたまま涙を流し尽くし、離婚届を用意してサインした。
振り返ると、そこには17歳の航が立っており、涙を流しながら私を見つめていた。
* * *
東都の上流階級には、ある共通の秘密があった。
野口家の御曹司である野口航(のぐち こう)は、妻を何よりも溺愛している一方で、外では女遊びを楽しむ悪癖があった。
愛人たちには望むものを何でも買い与えるほど甘やかしていたが、航の中では唯一、絶対に越えてはならない一線があった。
それは、愛人たちが決して妻の前に姿を現してはいけないことだ。
その妻は、航が10年もの間愛し続け、命を削るような思いをしてようやく娶った女性だということは、誰もが知っていた。
もし妻が死ねば、自分はもう生きていけないと公言したほどだった。
しかし、今回の愛人は身の程知らずで、航の寵愛を盾にして私を挑発してきた。
相手は私にずらりと並べられたコンドームの写真を送りつけ、そこに航の安らかな寝顔まで添えてきた。
【蛍(ほたる)さん、ストロベリー味のイボ付きゴムは刺激が強すぎて、私は一晩中喘いじゃいました。野口社長は奥さんと使ったことありますか?】
その瞬間、私はようやく悟った。かつてその瞳にも心にも私しか映していなかったあの少年は、愛は私に与え、欲望は別の女たちに注いでいたのだと。
私はそれらの写真を見つめたまま涙を流し尽くし、離婚届を用意してサインした。
振り返ると、そこには17歳の航が立っており、涙を流しながら私を見つめていた。
……
ドア一枚を隔てて、航の聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。
彼は流暢なS国語を操り、深刻な口調で話していた。
「夏美が俺の子を妊娠した件は、絶対に秘密だ。蛍には絶対に知られるな」
個室の中は一瞬静まり返り、やがて次々と茶化すような歓声が上がった。
「航さん、すげえっす!一発で命中っすね!」
「安心してくださいよ航さん。俺たち、奥さんが航さんの命より大事な人だって分かってますから。奥さんの前では絶対に黙りますよ」
「……」
航は私がS国語を理解できないと思い込んでいる。だから、外で作った愛人の話をする時は、いつも決まってS国語を使うのだ。
確かに以前の私なら彼の話を理解する術はなかっただろうが、今は違う。
私はドアノブから手を離し、顔を上げて、傍らで目を真っ赤にして信じられないという顔をしている少年を見た。
「彼、なんて言ってた?」
私は努めて冷静な声を装ったが、微かに震える声色が内心の動揺を隠しきれていなかった。
少年の顔に複雑な色が浮かんだ。
私はさらに一言付け加えた。「嘘はつかないで」
彼は歯を食いしばり、唇を震わせながら、しばらくしてようやく言葉を絞り出した。
「子どもができたって」
航が浮気をしていることはとっくに知っていたが、彼が別の女に子どもを身ごもらせたという事実を突きつけられると、やはり胸の奥が鈍く痛んだ。
私は目を伏せて、苦い笑みをこぼした。
「これで、私が彼のもとを去る理由が分かったでしょ」
私は少年と視線を合わせ、その名前を呼んだ。「航」
少年は不意に涙をこぼした。薄暗い照明の下で見える、その顔は、部屋の中にいる27歳の航と全く同じだった。
違うのは、27歳の航は外で愛人を囲うようになったのに対し、17歳の航の瞳にも心にも、私一人しか映っていないということだ。
少年の声は震え、途方に暮れてひどく心細そうだった。
そして、私に尋ねた。「蛍、どうして?」
1日前、17歳の航は突然私の背後に現れた。
私の手にある離婚届を見た時も、私に「どうして」と尋ねた。
ただあの時は、なぜ私が自分のもとを去るという選択をしたのかが理解できなかっただけだ。
そして今、少年はもう一つの事実を理解できなかった。一生私を大切にすると誓ったはずの自分が、なぜ10年後になって、私をこれほどまでに傷つけるような真似をしたのかを。
少年は言葉を詰まらせ、何一つ口にできずにいた。
私は彼の頭を撫でようとしたが、指先はその姿をすり抜けてしまった。
「理由なんて、ないのよ。
あなたと約束したこと、私は忘れていないわ」
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