銀河を越えたら、愛はもう戻らない第1話
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三年前、黒崎蛍(くろさき ほたる)は研究チームでの更なる研鑽の道を断ち、家庭に戻ることを選んだ。
そして夫も彼女を裏切らず、結婚後は互いを尊重し合い、穏やかで甘やかな日々を過ごしてきた。
しかし半月前。警察勤めの親友から、夫の浮気現場を捉えた写真が、送られてきた。
* * *
「黒崎教授、半月後の火星研究計画に参加することを確認されますか」
黒崎蛍(くろさき ほたる)は一瞬の迷いもなく答えた。「ええ、参加します」
「分かりました。研究の機密性のため、半月後にご主人の加瀬圭太さんへは、あなたが氷河島旅行中に不慮の事故で亡くなり、遺体は発見されなかったとお伝えします。それによって、あなたの失踪に一切の矛盾が生じないようにします。他にご希望はありますか」
蛍はかすれた声で言った。「ありません。ありがとうございます」
電話を切った彼女は窓の外に視線を向けた。外の大型スクリーンには、三年前に加瀬圭太(かせ けいた)が彼女のために用意したプロポーズ映像が、今も繰り返し流れている。
男はカメラを見つめ、やさしい眼差しで微笑んでいた。「蛍、俺と結婚してくれるか」
カメラの外からは、恥じらいと幸せの入り混じった声が返る。「はい……」
思えば滑稽な話だ。プロポーズされた当事者である自分は映像に一切映っておらず、最初から最後まで、そこにいるのは圭太だけだった。
蛍は視線を戻し、カップの中のラテアートの渦を見つめながら、静かに涙をこぼした。
だが、それはもう幸福の涙ではなかった。
三年前、彼女は研究チームでの更なる研鑽の道を断ち、家庭に戻ることを選んだ。
そして圭太も彼女を裏切らず、結婚後は互いを尊重し合い、穏やかで甘やかな日々を過ごしてきた。
しかし半月前。警察勤めの親友から送られてきた何枚もの写真が、すべてを壊した。
そこに写っていたのは、手をつなぐだけで顔を赤らめたあの夫が、別の女と、いやそれだけでなく、男とも親密に寄り添う姿。しかも目を覆いたくなるほどの淫らな光景で……蛍は思わず吐き気を催した。
長年知ってきたはずの圭太が、外ではこんな下劣な人間だったなんて、夢にも思わなかった。
五歳の時、実の両親に捨てられた蛍を、圭太の母・紬(つむぎ)が家に迎え入れてくれた。
初めて彼女を見た圭太は、胸を叩きながら力強く言った。「妹、ここはこれからお前の家だ。俺は絶対にお前を捨てたりしない」
小さな蛍はその言葉をずっと心に刻み、今日まで忘れたことがなかった。
けれど、彼は守らなかった。だから、彼女は去ると決めた。
カフェを出た後、どれほど歩いただろうか。ふいに目の前に人影が立った。
避けきれずぶつかりそうになった蛍が謝ろうとした瞬間、その人物が彼女を抱き寄せた。
「蛍、さっき電話しても出ないから、きっとここにいると思って」
圭太の体から漂う、馴染みのあるモミの香水の匂い。以前ならそれだけで心が安らいだが、今はただ吐き気を催す。
蛍はさりげなく距離を取った。「何か用?」
彼の目には隠しきれない心配が宿っていた。「連絡がつかなくて心配したんだ。蛍、次からは出かける時に一言言ってくれ。何かあったらどうする?」
その偽りのないように見える愛情を見つめながら、蛍の胸中はますます混乱した。どうして彼は、自分を愛していると言いながら、他の人間とも平然と愛し合えるのか。
「心に抱えていることがあるなら、何でも聞くから」
だが言い終わらぬうちに、彼のスマホが鳴った。
蛍はその瞬間、彼の視線が別の方へ逸れるのを見て、心の中で冷ややかに笑った。
自分の目の前ですら隠そうともしない。今まで気づかなかった自分が、どれほど愚かだったのか。
積み重ねた年月も愛情も、結局は時の試練には勝てなかった。
この瞬間、蛍は心を固めた。こんな男、もういらない。
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