酒は寝かせる、愛は寝かせない第2話
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【別れる?いい歳して、今さらそんなマネするのかよ。
そもそも、お前は俺なしじゃ生きていけないだろ】
想像できる。このメッセージを送る蓮は、鼻で笑っているだろう。
私は彼を相手にしなかった。
家に戻ると、荷物をまとめ始めた。
そのとき、スマホの画面がふっと明るくなった。
紗季がSNSに投稿したものだった。
写真に写っていたのは、蓮のワインセラー。
そこには赤ワインが整然と並び、全部で52本もあった。
投稿には、こう添えられていた。
【ただ1人の特別な人に捧げる♡】
そのワインには見覚えがあった。
カロン・セギュール。
ハートの形をしたラベルが特徴のワインだ。
蓮は以前、このワインを「愛のワイン」と呼んでいた。
揺るぎない愛情と、ただ1人だけを特別に想う気持ちの象徴なのだと。
結婚式の日に、私に贈るつもりだと言っていた。
でも今、それはもう私のものじゃない。
このワインを私が受け取ることも、もうない。
それでも、ここだけは蓮のもとを離れる前に1度、行っておかなければならなかった。
1年前、妹の高瀬遥(たかせ はるか)が私のために1本のワインを預けてくれた。
私が結婚するときに取りに来ればいいと言って。
でも、もう結婚することはない。なら、あのワインを預けておく必要もない。
スタッフに預かり台帳を見てもらい、しばらく探してもらった。
けれど、いくら探しても見つからなかった。
「何を探してるんだ?」
蓮が紗季を連れて、こちらへ歩いてきた。
「遥が私のために預けてくれたワイン。ずっと見つからないの。別の場所に置いてあるのかもしれない」
「もう探さなくていい。俺が紗季にやった」
蓮は当然のように言った。
私の顔を見ることすらなかった。
「そんな勝手な!あれは遥が私に残してくれた、最後の形見なのに!」
信じられなかった。
体が小さく震えた。
「真帆さん、ごめんなさい。全部私のせいです。
あのワインを1度も飲んだことがなくて、飲んでみたいって言ったから……
どうか蓮さんをせめないでください」
紗季はみるみる目を赤くした。
まるで私が悪者であるようだった。
「おおげさだな。たかがワイン1本だろ。
それに、遥はもう死んでる。置いておいたって、場所を取るだけだ」
蓮の声が低くなる。
「ワインならここにいくらでもある。好きなのを選べばいい。
それよりこんなところでみっともない真似するな」
そう言い捨てると、蓮はそのまま背を向けて歩き去った。
私は口を開いた。
何か言いたかったが、何1つ言葉にならなかった。
紗季が私のそばまで歩いてくる。
そして唇を私の耳元に寄せ、2人にしか聞こえない声で囁いた。
「実はね、あのワイン、飲んでないの。適当にそこらへんのホームレスにあげちゃった。
だって、死んだ人の残したものなんて、気味が悪いんだもの」
そこで、とうとう我慢できなくなった。
私は手を上げ、紗季の頬を平手で打った。
「よくもやってくれたね!私を誰だと思っているの?」
紗季はもう取り繕う気もなくなったらしい。
「知ってる?あなたが毎晩1人で寂しく過ごしてる間、蓮さんは私を抱いて、何度も何度も求めてたのよ」
紗季は顎を上げ、嘲るように私を見た。
「愛人ふぜいが、よくそんなことが言えるわね」
私は怒りで唇を噛みしめた。
「愛人?ふふっ。愛されてもいないのに、まだ正室を気取っているの?
実際、真実をその目で確かめてみれば?」
紗季が突然、私の背後へ視線を向けた。
そして、陰湿な笑みを浮かべる。
次の瞬間。
紗季は自分から勢いよくテーブルの角へ頭をぶつけた。
「真帆さん、どうして私を突き飛ばしましたか?あのワインを飲んだからですか?」
額から血が流れ落ちる。
紗季は頭を押さえたまま、床にうずくまり、涙をぼろぼろとこぼした。
「紗季!」
蓮が駆け寄ってくる。
そして私を振り返った。
その目は、まるで刃物のように鋭かった。
「真帆……お前には、本当に反吐が出る。
もう2度と、俺のワイナリーに足を踏み入れるな」
そう言うと、蓮は紗季を抱き上げ、そのまま振り返ることなく立ち去っていった。
蓮は私の話を1言も聞こうとせず、あまりにもあっさりと私を悪者にした。
紗季は私を振り返り、勝ち誇ったような顔で笑っている。
私は、2人が寄り添いながら遠ざかっていく背中を見つめ、自嘲するように笑った。
――ワイナリーに入るな、だって?
蓮はどうやら忘れているらしい。
このワイナリーの株式は、私が70%を保有している。
つまり、実質的な経営権を握っているのは私だ。
蓮の夢を支えるために、私は貯めてきたお金の大半を、このワイナリーにつぎ込んだ。
そろそろ、きちんと清算するときが来たようだ。
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