過去を越えて――南城の記憶第2話
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「お礼なんていりません。真白も私の娘です。一緒に過ごしてきた時間で、もう家族同然ですから。欲しいものなんてありません」
私は冷たい口調で答えた。
麗華は予想外の返答だったのか、顔色を一瞬で蒼白にした。
「ごめんなさい、ちょっと用事があるので失礼します」
そう言い残して、振り返ることなく息の詰まるようなその場所を立ち去った。
この6年間、誠一郎は必死に働き、ゼロから始めた事業をいくつも成功させ、今では複数の会社を経営している。
その間、私は彼を支えるために真白を育ててきた。
私の彼への想いは、彼にとって一体どんな意味があったのだろう?
初めての育児に戸惑い、ネットで子どものあやし方を調べた。
真白が数か月の頃、栄養失調になりかけた時には、栄養レシピを学んで一生懸命作った。
1歳の頃、真夜中に高熱を出した時――誠一郎は出張中で連絡がつかず、私が夜中の病院へ彼女を連れて行った。
誠一郎が私にしたのは「結婚しよう」というプロポーズではなく、ただの「一緒にいよう」という一言だけだった。それだけで私は彼の傍にいることを決めたのだ。
それなのに、後になって私はある写真を目にした。
写真の中の女の子は、無邪気に笑っていた――その瞬間、気づいてしまった。
なぜ彼が私を選んだのか。
それは、私が麗華に少しだけ似ているからだ。
私たちの結婚式は小さなもので、親しい親戚だけを招いて行われた。
両親はこの結婚に反対だった。
母は、私をじっと見つめながらこう言った。
「この人と結婚しても幸せにはなれないわよ」
それでも私は、どうしても彼と結婚したかった。
「私は彼と結婚したい。だって、私が愛しているのは彼だけだから」
その言葉を聞いた家族は、もう何も言わずに私を諦めた。
父は激怒し、その夜に心臓発作を起こして緊急搬送された。母は父の介護で体を壊し、後遺症が残った。
その時、私は家に帰らなかった。
真白が私を必要としていたから。
私がそばにいないと真白はご飯を食べようとしなかった。
冷たい風が頬に痛い。気がつけば涙が止めどなく溢れていた。
私は遊園地へ向かい、真白が楽しそうに遊ぶ姿を見つけた。
急いで涙を拭い、笑顔を作る。
「ママだ!」真白が私に気づき、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「ママ、やっと来た!会いたかったよ!」
私は彼女の頭を優しく撫でた。
「ごめんね、ちょっと用事があって遅くなっちゃった。今日は何でも好きなものを買ってあげるから、何が欲しい?」
胸が苦しい。こんなに可愛い子を、どうして置き去りにできるのだろう?
家に帰り、簡単な家庭料理を作った。
真白はお利口にしてくれて、わがままも言わず、誠一郎のことも聞いてこなかった。夕食を食べ終えると、素直に部屋へ戻り眠りについた。
私はスマホを手に取り、誠一郎にいつ帰るのかとメッセージを送った。
少しして、スマホが震える音がした。
画面を開くと、そこには1枚の写真。
ベッドに横たわり、安らかな顔で眠る誠一郎が写っていた。
「彼、今日は帰らないと思うわ」
そのメッセージは麗華からだった。
きっと彼女の心には、勝者としての誇りがあるのだろう。
だって、何もせずとも、彼女は私に勝ったのだから。
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