転生した後、夫の初恋の出産介助なんて引き受けない第3話
この話は約1276字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
そのとき、看護師が突然駆け込んできて、私たちのにらみ合いを遮った。
「霧島社長、大変です!水沢さん、どうしても赤ちゃんが下りてきません。高橋先生にももう手の打ちようがなくて……院内でこういう患者の分娩に対応できる経験があるのは、白石先生だけなんです」
看護師が言い終えるより早く、澪士は手術室の前へ駆けていった。中からは美玲の悲鳴のような叫び声が響いてくる。
あまりに痛々しいその声に、澪士はいても立ってもいられない様子で、扉を激しく叩いた。
「美玲、俺はここにいる。怖がるな!絶対に無事に出産させるから!」
そして振り返ると、私に向かって怒鳴った。
「澄乃、お前はどうすれば美玲を助ける気になるんだ!」
澪士の声が聞こえたのだろう。中から美玲のかすれた声が返ってくる。
「澪士……この人に頭なんて下げないで。この人、最初から私のことをよく思ってないのよ。私のことは心配しないで……ただお腹を切っただけ。息子がちょっとわがままで、まだ出てこようとしないだけみたいで……」
周囲の看護師たちも、たまりかねたように口を開いた。
「白石先生、普段から愛想がないのはまだしも、今日はさすがに冷たすぎるんじゃない?」
「若くてきれいで、しかも子どもまでいる相手が妬ましいんでしょ」
「こんな人、医者でいる資格ないわよ!」
そんな言葉を浴びせられても、私の心は少しも揺れなかった。前世で味わったものに比べれば、こんなものは何でもない。
私は黙って病院を後にした。だが、外へ出る前に、黒服の大柄な男たちに行く手を塞がれる。
そのまま私は澪士の前へ連れて行かれた。
「どういうつもりだ。こんなふうに立ち去るなんて」
澪士の顔は冷え切っていた。その表情は、前世のあのときとまったく同じだった。
あのとき彼は、美玲の死因が大量出血だと知るや否や、彼のひと言で、私の血をほとんど抜き取らせた。
長い採血針は、骨の髄まで突き刺さるように痛かった。まるであの瞬間、彼に向けていた愛も、期待も、何もかも一緒に抜き取られていったかのようだった。
私が泣きながら痛いと訴えても、彼は顔色ひとつ変えず、唇を噛みしめて言った。
「痛いだと?美玲は手術台の上で、その何千倍、何万倍も苦しんだんだ!
美玲は痛いのがいちばん苦手なんだ。そんな美玲が、それでも俺の子を産もうとしてくれた。死ぬとき、どれだけつらかったか……!」
彼の頭にあるのは、美玲が痛みに弱いということだけ。どん底だった彼に寄り添っていたのが美玲だった、ということだけ。
私が何度も彼に付き合って酒の席に出て、胃が痛くなるまで飲み、吐血するまで無理をしてきたことなど、もう忘れてしまったのだ。
昔は彼も、私に対してこんなふうに細やかだった。心から私を大切にしてくれていると、そう信じていた。
それなのに、後になって私が胃の病気で入院したときには、一度たりとも見舞いに来なかった。
澪士の怒鳴り声が、私を回想から引き戻す。
「澄乃、頼む、美玲を助けてくれ。この子も助けてくれ。お前は何が望みなんだ?どうすれば助ける?」
私はようやく顔を上げ、血走った彼の目をまっすぐ見返した。
「六億よ」
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