身代わりは卒業。甘やかした彼を捨て叔父の妻へ第2話
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彩花は一晩かけて、荷物を全部整理した。
自分の服や本、それにこの数年で少しずつ買い足してきた小物や絵も全て片付けた。
この家はいつか自分のものにもなるのだと、信じていた。だから、すごく心を込めて部屋を飾ってきたのに。
今は、その物たちも、主である自分と同じように、ここから消えるべきなのだ。
その夜は、一晩中雨が降っていた。
智也が帰ってきたのは、次の日の朝だった。白いシャツ一枚だけで、ずぶ濡れになっている。
彩花の顔を見るなり、彼はやましいことでもあるのか、気まずそうに目をそらし、ぎこちなく笑った。「こんなに早く起きるなんて、どうしたんだ?もっと寝てればいいのに」
彩花は答える。「早起きは気持ちいいから」
特に何も気づいていないようで、智也は頷いただけだった。「それもそうだな。俺は、先にシャワー浴びてくるから」
「智也」
「ん?どうした?」
「昨日の夜……」
「ああ、クライアントから急に仕事を頼まれて。催促もすごかったから、残業だったんだよ。一晩中かかりっきりで、ご飯食べる時間もなくってさ。本当、疲れたよ……」
人は嘘をついているとき、急に口数が増えるものだ。
相手に信じてもらえないのが怖いから、必死で細かいことを話して、本当らしく見せようとするらしい。
智也が、まさにそうだった。
彼は普段、口数が多い方ではない。いつも簡潔に話すし、彩花をなだめるときでさえ、こんなに長く話したりはしない。
だから、彩花は言った。「聞きたかったのは、上着のことなんだけど。昨日の夜、家を出たときは上着を着てたでしょ?だから、上着はどうしたのかなって思って。会社にでも忘れてきた?」
智也は明らかにホッとした様子で、笑みを浮かべると、ため息をついた。「ああ、会社に置いてきた。大丈夫、寒くないから」
「そう。じゃあ、シャワー浴びてきたら」
智也は近づいてきて、優しく彩花の髪を撫でた。「彩花、そんなに俺のことを心配してくれたのか?」
彩花は少し頭を動かして、彼の手を避けた。
そして素早く智也のそばを離れ、背を向けて窓際に立つ。「早くシャワー浴びてきて。濡れた服をずっと着てたら、風邪ひいちゃうよ」
智也の手は空中で止まった。少し呆気に取られていたが、自分自身の濡れたシャツを見て彼は笑った。「俺が濡れてるから嫌だったんだな。それもそうか、お前まで濡らしちゃ悪いし」
それからすぐに、バスルームの方からシャワーの音が聞こえてきた。
これまで彩花は智也のスマホを見たことがなかったし、智也も何かを隠すようなそぶりを見せたことはなかった。
だからスマホはいつも、無造作に置かれている。
ブーッ――
スマホが震えた。
通知が来たのだ。
綾香からだった。【ショートケーキ、もう家に着いた?】
【上着、ありがとう。すっごく暖かかったよ】
驚いたかって?
実を言うと、彩花はそれほど驚いていなかった。
昨日、智也が慌てた様子で家を飛び出していったときから、心の中ではもう予想がついていたのだ。
だが、予想だけと、実際に目の当たりにすることとでは、まったく意味が違う。
彩花は自分のスマホで、「あやか」というアカウントを検索した。
30分ほど前に、新しい投稿が更新されている。
それは動画だった。
綾香は雨の中を、まるで小さな妖精のように楽しそうに駆け回っていた。
綾香が立ち止まると、後ろから誰かが大きな上着で彼女を優しく包み込む。
その男は、彩花が一度も聞いたことのないような甘い声で言った。「あんまりはしゃぎすぎるなよ。風邪ひくぞ」
すると、綾香が男に答える。「あなたがいるから、何も怖くないもん」
男は優しく笑い、甘やかすように囁いた。「そうだな。俺がずっとそばにいるよ」
この動画には、こんな文章も添えられていた。【遠回りしたけど、あなたはずっとここで待っててくれたんだね】
智也が髪を拭きながら、バスルームから出てきた。「俺のスマホ、鳴った?」
彩花は智也のスマホを持ち上げ、ゆらゆらさせながら答える。「一回震えたよ」
すると、智也が飛びつくように駆け寄ってきて、彩花が持っていたスマホをひったくった。
ものすごい力だった。
メッセージを返し終えてから、智也は自分の取り乱した態度にやっと気づいたようだった。
そして気まずそうに言い訳を始める。「クライアントから催促がきてて、ちょっと焦っちゃった……ごめん、痛かった?」
「大丈夫」彩花は彼の言葉を遮った。「じゃあ、早く仕事したら?私、ちょっと出かけてくるから」
智也は追いかけてきて、彩花の腕をつかんだ。「彩花、怒ってるのか?」
「怒ってないよ」
彩花は、怒ることさえできなかった。
なぜなら、自分には怒る資格すらないように感じていたから。
すると、智也がリビングの隅に積まれたいくつかの大きなゴミ袋に気づいた。「昨日、大掃除でもしたのか?すごい量のゴミだけど」
彩花は、「うん」とだけ答える。
智也は笑った。「そっか。じゃあ、置いといていいよ。後で俺が捨てておくから」
「智也。バスルームからなくなってる物、気づかなかった?」
「……うーん、特になかったと思うけど」智也は聞いた。「ボディソープがなくなった?俺が買ってくるよ」
彩花は、ただ静かに頷いただけだった。
バスルームにあるタオル、歯ブラシ、スリッパはすべてお揃いのものだった。
いつも、二つ仲良く並んで置かれていたのに。
智也が青で、彩花がピンク。
一目見ればすぐに分かるはずなのにな。
昨日の夜、彩花は自分のものをすべて片付けた。だから、バスルームには智也の一式しか残っていないはずだった。
だが、彼は気づかなかった。
心には別のことがあるからか。それとも、もとから気にも留めていなかったのか……
彩花はもう、それを確かめる気力もなかった。
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