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身代わりは卒業。甘やかした彼を捨て叔父の妻へ第1話

この話は約2329字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

「お姉ちゃん。この前話してくれた人、会ってみようかなって思ってるんだけど」

電話の向こうで、姉の鈴木奈津美(すずき なつみ)が少し驚いたようだった。「どうしたの、急に?この間まで、智也じゃなきゃ絶対に嫌って言ってたのに」

鈴木彩花(すずき あやか)は数日前に自分が言ったことを思い出し、自分がどれだけ馬鹿だったかと、後悔する。

「目が覚めたの。それだけ」

「わかった。その人、ちょうど来月の頭に帰ってくるらしいから、また連絡するよ」

電話を切った彩花は、すぐにスマホに予定を書きこんだ。

来月の頭まで、約2週間。

夢を見るのは、もうおしまい。しっかり、現実を見なくては。

* * *

「お姉ちゃん。この前話してくれた人、会ってみようかなって思ってるんだけど」

電話の向こうで、姉の鈴木奈津美(すずき なつみ)が少し驚いたようだった。「どうしたの、急に?この間まで、智也じゃなきゃ絶対に嫌って言ってたのに」

鈴木彩花(すずき あやか)は数日前に自分が言ったことを思い出し、自分がどれだけ馬鹿だったかと、後悔する。

「目が覚めたの。それだけ」

「わかった。その人、ちょうど来月の頭に帰ってくるらしいから、また連絡するよ」

電話を切った彩花は、すぐにスマホに予定を書きこんだ。

来月の頭まで、約2週間。

夢を見るのは、もうおしまい。しっかり、現実を見なくては。

ちょうどその時、寝室のドアが開いた。

いつものように優しい笑みを浮かべた宮崎智也(みやざき ともや)が、手に持っていたケーキ屋の箱を彩花に差し出す。「3時間も並んで買ってきたんだよ。食べてみて」

彩花は受け取って、箱を開けた。

やはり、ショートケーキだった。

彩花はケーキをそっと脇に置く。「ごめん。今は、ケーキって気分じゃないの」

智也は彩花の隣に腰を下ろし、優しくその肩を抱きしめた。「どうしたの、彩花?誰かに何か言われた?俺が懲らしめてやるから、言ってみ?」

彩花は力なく笑った。

智也と付き合ってもう3年になる。これまで、ショートケーキは好きではないと、何度も伝えてきたはずなのに。

彩花が好きなのは、チョコレートケーキ。

だが、智也が買ってくるのはいつもショートケーキだった。

最初は、単純にチョコレートケーキが売り切れてしまっただけだと思ってた。

1週間前のあの夜までは……

智也がシャワーを浴びている間に彼のスマホが鳴り、画面にはツイッターの通知が表示されていた。

「あやか」というアカウントが、新しいツイートを投稿したという通知だった。

【いろんなスイーツを食べてきたけど、やっぱり一番は桜通りにあるお店のショートケーキ!】

智也はこのアカウントの通知が来るように、わざわざ設定している。

それに、そのアカウント名を見たとき、彩花は何だか変な感じがした。

なぜなら、「あやか」という自分と同じ名前だったから。

彩花は気になって、自分のスマホでもその「あやか」というアカウントを検索してみた。彼女の投稿を遡って見ていたら、いつの間にか3年分もスクロールしていた。

「あやか」はどうやら明るい女の子で、世界中を旅しているようだった。容姿もすごく綺麗で、とてもおしゃれなのだ。

投稿を見る限り、今は海外にいるようだったが、もうすぐ帰国してくるらしい。

彼女の本名が、鈴木綾香(すずき あやか)ということも分かった。

彩花と綾香。漢字は違うが、読み方は全く同じ「あやか」。

その偶然に、彩花の胸はざわついた。

そしてその後、智也のツイッターのサブ垢も偶然見つけてしまった。そのアカウント名は「ショートケーキ」。

いい大人の男が、女子みたいなアカウント名を使うとは……それ以前に、そもそも智也らしくなかった。

だが、すぐにその理由に気づくことになる。

綾香の投稿にはっきりと「一番好きなのは、ショートケーキ」と、書かれていたのだ。

智也が恥じらいも捨て、あんならしくない名前をつけていたのは、せめてネットの片隅でだけでも、綾香にとっての「一番好きなもの」でありたかったから。

その時になって、彩花は全てを悟った。3年前、一度会っただけのはずの智也が、なぜあんなに熱心にアプローチしてきたのか。

なぜこの3年間、あんなに優しく、甘い声で「あやか」と呼んでくれたのか。

そして、なぜショートケーキしか買ってこなかったのか。自分が何度も「好きではない」と言っても、聞き入れてくれなかった理由も……

智也が呼んでいた「あやか」は、自分ではなかったのだ。

彩花の気持ちに全く気づいていない智也は、いつものように優しい口調で言った。「もしかして、生理でイライラしてるの?甘いものでも食べたら気分転換になるよ。ここのショートケーキは本当に美味しいんだから。一口食べない?」

彩花の胸は、まるで大きな石が詰まったように苦しくなった。「言ったよね?私、ショートケーキが好きじゃないの!」

智也は一瞬きょとんとして、彩花が急に声を荒げたことに驚いているようだった。

その時、不意に智也の電話が鳴った。

智也が電話に出る。すると、彼の表情が、驚きから、みるみるうちに喜びに変わっていった。「わかった。すぐ行く」

電話を切る智也の手は、かすかに震えていた。

よほど慌てていたのか、彼はドアのそばにあった植木鉢にぶつかりながら、部屋を飛び出していった。

走り去る車のテールランプを見送りながら、彩花は導かれるように「あやか」のツイッターを開く。

そこには一枚の写真が投稿されていた。空港の到着ロビーの写真。

添えられた文章は、【やっと着いた!ショートケーキ、会いたかったよ!】というものだった。

なるほど、今日は綾香が帰国してくる日だったのか。

彩花は静かにスマホの画面を消すと、そっと息を吐き出した。

自分という「身代わり」の出番は、もう終わりみたいだ。

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