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赤ん坊の心が読める猫に転生した件第1話

この話は約3209字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

私は冥界で300年、せっせと働き続けた。徳を積み、「人間への転生チケット」を手に入れたと思った、その矢先――

酒に酔った閻魔様が盛大にやらかした。

転生先を間違えられた結果、私はまさかの畜生道送り。

気づけば、財閥一家でぬくぬく暮らす、まるまる太った茶トラ猫になっていた。名前は茶々丸(ちゃちゃまる)。

さすがに閻魔様も後ろめたかったのか、お詫びとして百年分の寿命を上乗せし、さらに「赤ちゃんの心の声が聞こえる能力」までサービスしてくれた。

ここまで来たら文句を言っても仕方ない。

猫なら猫で、全力で満喫してやろうじゃないか。

そんなわけで私は、米沢家の一人娘・米沢美月(よねざわ みづき)と一緒に育ち、気づけば十数年が経った。

毎日ご飯は出てくるし、昼寝はし放題。完全に勝ち組猫ライフである。

今では美月は私の「終身スポンサー」。そして彼女もまた、私を家族同然に可愛がってくれていた。

――そして今日。

美月が無事に女の子を出産し、私はVIP分娩室の前で、海外から取り寄せた高級フリーズドライのおやつを夢中でかじっていた、その時だった。

頭の中に、赤ちゃんのふにゃふにゃした声が飛び込んでくる。

(やだぁ……連れて行かないで……

パパが私を隠し子と入れ替えようとしてるの……!

施設なんて嫌!ママと一緒にいたいよぉ……!)

私は思わず咀嚼を止めた。

すると間髪入れず、もう一人の赤ちゃんの声が響く。

(フン、私が本物のお嬢様になったら、あの女も、あのデブ猫も真っ先に毒殺してやるんだから!)

その瞬間、私はぴたりと食べるのをやめた。全身の毛が一気に逆立つ。

(にゃんだと?私が目をかけて育ててきた美月お嬢様に手を出そうなんて、百年早いよ!トラの尾を踏んだらどうなるのか、今日こそ思い知らせてやる!)

私は後ろ足に力を込めると、放たれた矢の勢いで分娩室へ突っ込んだ。

* * *

私は冥界で300年、せっせと働き続けた。徳を積み、「人間への転生チケット」を手に入れたと思った、その矢先――

酒に酔った閻魔様が盛大にやらかした。

転生先を間違えられた結果、私はまさかの畜生道送り。

気づけば、財閥一家でぬくぬく暮らす、まるまる太った茶トラ猫になっていた。名前は茶々丸(ちゃちゃまる)。

さすがに閻魔様も後ろめたかったのか、お詫びとして百年分の寿命を上乗せし、さらに「赤ちゃんの心の声が聞こえる能力」までサービスしてくれた。

ここまで来たら文句を言っても仕方ない。

猫なら猫で、全力で満喫してやろうじゃないか。

そんなわけで私は、米沢家の一人娘・米沢美月(よねざわ みづき)と一緒に育ち、気づけば十数年が経った。

毎日ご飯は出てくるし、昼寝はし放題。完全に勝ち組猫ライフである。

今では美月は私の「終身スポンサー」。そして彼女もまた、私を家族同然に可愛がってくれていた。

――そして今日。

美月が無事に女の子を出産し、私はVIP分娩室の前で、海外から取り寄せた高級フリーズドライのおやつを夢中でかじっていた、その時だった。

頭の中に、赤ちゃんのふにゃふにゃした声が飛び込んでくる。

(やだぁ……連れて行かないで……

パパが私を隠し子と入れ替えようとしてるの……!

施設なんて嫌!ママと一緒にいたいよぉ……!)

私は思わず咀嚼を止めた。

すると間髪入れず、もう一人の赤ちゃんの声が響く。

(フン、私が本物のお嬢様になったら、あの女も、あのデブ猫も真っ先に毒殺してやるんだから!)

その瞬間、私はぴたりと食べるのをやめた。全身の毛が一気に逆立つ。

(にゃんだと?私が目をかけて育ててきた美月お嬢様に手を出そうなんて、百年早いよ!トラの尾を踏んだらどうなるのか、今日こそ思い知らせてやる!)

私は後ろ足に力を込めると、放たれた矢の勢いで分娩室へ突っ込んだ。

――ドンッ!

VIP分娩室のドアが勢いよく開き放たれる。

床へ軽やかに着地すると、私は喉の奥で低くゴロゴロと唸りながら、部屋中をぐるりと見回した。

病床にもたれているのは、私が12年間ずっと見守り続けてきた米沢家の令嬢――美月。

出産を終えたばかりで顔色は青白く、苦しそうに浅い息を繰り返している。

その傍らには、入り婿の夫・米沢陽介(よねざわ ようすけ)。

腕の中に、生まれたばかりの女の子を大事そうに抱き、目を潤ませながら優しく微笑んでいる。

「美月、本当にお疲れさま。

ほら見て。この子、目元が君にそっくりだ」

今にも溶けてしまいそうな甘い声だ。

その横には、美月の親友・杉浦風花(すぎうら ふうか)が立っている。

美月とは8年来の付き合いで、家族同然の仲だ。

風花はハンカチで美月の汗を拭いながら、嬉しそうに微笑んだ。

「美月、本当におめでとう。この子、こんなに可愛いんだもの。将来は絶対、とびきりの美人になるわ」

美月は愛しむような優しい眼差しで赤ん坊を見つめた。

震える手をそっと伸ばし、その小さな頬に触れようとした――その時だった。

(触らないで、このバカ女!私が大きくなったら、あんたをやっつけて、その数千億の株、ぜんぶママに持っていってやるんだから!)

まただ。

あの胸くそ悪い赤ちゃんの声が、頭の中へ響き渡る。

ブワッ――

全身の毛が一斉に逆立ち、尻尾もぴんと一直線に立った。

このクソガキ……!

陽介の腕の中では天使みたいな顔をしてるくせに、中身は毒ヘビそのものじゃないか!

その時、不意に別の声が聞こえた。

(……誰か……助けて……暗いよ、寒いよ……背中に何か刺さってる……痛い……)

か細く、今にも消えてしまいそうな声。

私は勢いよく振り返る。

声は部屋の隅から聞こえていた。

そこには医療廃棄物を積んだステンレス製のワゴンが置かれている。

一番下の棚には、パンパンに膨らんだ黒いビニール袋が押し込まれていた。

間違いない。声はあそこからだ。

あの袋の中にいるのは――

私が10ヶ月もの間、美月のお腹に毎日ゴロゴロ喉を鳴らして聞かせ、ずっと見守ってきた本当の米沢家の子だ!

ギギギッ――

私は床を爪で思い切り引っかき、耳障りな音を響かせた。

(陽介のにゃろう、いい度胸してるじゃないか!

米沢家で食わせてもらいながら、その家の娘をすり替えようなんて!

今日こそ猫パンチの恐ろしさを教えてやる!)

私はベッドをひらりと飛び越え、そのまま黒いビニール袋へ飛びかかった。

ビリッ!

鋭い爪が、何重も重ねられた袋の外側を一気に切り裂く。

「きゃあっ!猫が暴れた!」

付き添いの使用人、森川敦子(もりかわ あつこ)が悲鳴を上げ、慌てて後ずさる。

陽介も顔色を変え、腕の中の赤ん坊を抱えたまま反射的に距離を取った。

「美月!茶々丸が急に暴れ出したぞ!普段はあんなに大人しいのに!

誰か、早く外へ!赤ちゃんにケガでもさせたら大変だ!」

風花もすかさず美月の前へ立ちはだかる。

「美月、猫は雑菌だらけよ!外で変なものでも食べて興奮しちゃったんじゃない?

警備員!早くこの猫をつまみ出して!」

2人の警備員が部屋へ飛び込み、私の首根っこを掴もうと手を伸ばす。

私はひらりと身をひねると、お返しとばかりに鋭い猫パンチを叩き込んだ。

「ぐっ!」

警備員が顔をしかめる。

私は黒いビニール袋の上へ飛び乗り、喉の奥から低いうなり声を響かせた。

この袋に触ったら、次は本気で噛みついてやる!

(ねこさん……助けに来てくれたの……?苦しい……もう息ができないよ……)

袋の中から聞こえる声は、どんどん弱々しくなっていく。

まずい。時間がない。

私は夢中で袋を引っかき、結び目を噛み切ろうと必死にもがいた。

「あの子を傷つけないで!」

美月の声が部屋に響く。

ふらつく身体を無理やり起こし、皆の向こうにいる私をまっすぐ見つめる。

「茶々丸は、12年間ずっと私と一緒にいたの。理由もないのに暴れたりする子じゃないわ」

そう言って、視線をゆっくり黒いビニール袋へ向ける。

「茶々丸があの袋を開けようとしてる……」

爪で裂かれた黒いビニール袋を見据え、美月は静かに問いかける。

「……あの中に、何が入っているの?」

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