誕生日ケーキが届いた日、私は離婚を決めた第2話
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私はテーブルの引き出しから、離婚協議書と離婚届を取り出した。実験で少し変形してしまった指先を眺め、私はどこか吹っ切れたように、笑った。
スマホを取り出して、私の恩師である金田勇太(かねだ ゆうた)に電話をかけた。
「先生、以前お話しいただいた極秘プロジェクト、まだ参加できますか?」
電話の向こうで勇太は数秒黙り込んだあと、急に喜びに満ちた声を出した。
「もちろんとも!
しかし、今回の研究は最高機密レベルだ。参加すれば最低でも5年はかかるが、ご主人は賛成してくれるのかね?
君がいなくなったら、君たちでやっている会社は立ち行かなくなるだろうに」
私は離婚協議書と離婚届に自分の名前を書き込みながら、きっぱりとした口調で言った。
「先生、私、離婚します」
電話の向こうから、驚きの声が上がった。
どうやら、研究室の先輩たちも一緒にいたらしい。
「あの男が信用できないのは知ってたよ。恋愛のことしか頭になかった優香さんも、やっとあのクズ男の本性を見抜いたか」
「優香さん、さっさとチームに戻ってこいよ。俺たちはずっと待ってたんだ」
「先輩、落ち込まないでください。男なんて研究の邪魔になるだけですよ」
勇太はわざと彼らを叱りつけると、真剣な声で言った。
「優香、プロジェクト707に直ちに復帰せよ!
出発は二日後だ。身辺整理はしっかり済ませておけ」
電話を切ると、私は立ち上がってゲストルームに向かった。
今までゲストルームで寝たことなんて一度もなかった。
でも今は、このゲストルームだけが汚されていない綺麗な場所だと信じている。
翌日、私が目を覚ますと、もう午後の一時を過ぎていた。
この三か月間、ずっと研究に没頭して疲れていたから、やっとぐっすり眠れたんだ。
スマホを開くと、ラインが大量の通知で埋め尽くされていた。
どれもこれも、新薬開発の第一段階が成功したことへのお祝いメッセージだった。
宏樹はいろんなグループチャットで私をタグ付けして、嬉しそうにスタンプを連打していた。
数えきれないほどの称賛やお世辞の言葉を目にしても、私の心は少しも晴れなかった。
複雑な気持ちのまましばらくベッドに横になっていたが、やがて離婚協議書と離婚届を手に部屋を出た。
リビングはがらんとしていて、宏樹の姿はどこにもない。
テーブルの上には、私が大好きな歌手のコンサートチケットが一枚置かれている。
そして、一枚のメモが添えられている。
【夜7時、待ってる】
これが宏樹からの「ご褒美」なんだと、すぐにわかった。
少し考えたあと、私はその約束の場所へ行くことに決めた。
やり直すためじゃない。離婚するために。
だって、七年前、宏樹がこのコンサートで私にプロポーズして、私たちはその翌日に入籍したのだから。
そして今、私たちは同じコンサートで離婚について話し合い、もし話がまとまれば、翌日に離婚届を出すことになる。
それも、悪くない。
午後五時。離婚協議書と離婚届、それにチケットをバッグに入れると、私は服を着替えて家を出た。
今まで宏樹とデートする時は、いつも二時間も前からメイクをしていた。
慣れない化粧で苦労しながらも、どこか嬉しかったあの頃が、今はもう、遠い昔のことのようだ。
もちろん、彼と一緒に食事をするために、お腹を空かせて待っている必要もない。
家の近くで一人で済ませればいいから。
コンサート会場に着いたのは6時50分。宏樹にラインを送ったけど、返事はなかった。
私は首を振って、いつものように彼を待たず、そのまま列に並んで会場に入った。
その時、スマホに通知が来た。遥がインスタを更新し、わざわざ私をタグ付けしていたのだ。
【コンサートはキャンセルになっちゃったけど、遊園地デートも悪くないよね!今日の夜空、きれい!】
添えられていたのは、観覧車の中で男の人の手を握っている写真だった。
男の顔は写っていなかったけど、見慣れた指輪を見て、宏樹がコンサートに来ることはないと悟った。
なるほど。このコンサートでさえ、本当は別の女のために用意されたものだったのね。
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