誕生日ケーキが届いた日、私は離婚を決めた第3話
この話は約1519字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
でも、私は気にしなかった。
七年間の結婚生活を裏切った人だもの。今さら、たった一回の約束なんてどうでもよかった。
宏樹が離婚協議書と離婚届にサインさえしてくれれば、誰と寝ようが彼の自由だ。
コンサートが終わって、私は歩いて家に帰った。
見慣れた通りで、私はふと足を止めた。
昔、宏樹と二人でお金を節約しようと毎日通ったパン屋が、今ではおしゃれなカフェに変わっていた。
そこで初めて、全てが変わってしまったのだと悟った。
あの頃の甘い思い出さえも、時の流れの中に消え去ってしまったんだ。
家に着いたのは、夜中の1時だった。
リビングの明かりがついていて、ソファで宏樹がスマホをいじっていた。
私がドアを開けると、彼は眉をひそめて駆け寄ってきた。
「どうしたんだ?電話にも出ないし、ラインも返さない。今日は帰ってこないつもりだったのか?」
もしかして、私を待っていたの?
でも、この三か月、今日よりもっと遅くに帰ってきても、宏樹は何も言わなかったのに。
たぶん、今日は私が残業しなかったから、遥を家に連れ込めなくて困ったんだろうね。
まあいい。離婚すれば、彼女が堂々とこの家に住めるようになるんだから。
私は力を込めて手を引き抜い、静かに口を開いた。
「久しぶりに出かけたから。コンサートに夢中で、スマホの充電を忘れちゃったの」
コンサートの話を聞いて、宏樹は約束を破ったことを思い出したのか、少し申し訳なさそうな顔をした。
彼は唇をきつく結び、気まずそうに横から箱を取り出して、厳かに蓋を開けた。
思わず手を伸ばして触れてみると、それはウェディングドレスだった。
入籍したばかりの頃、私たちはお金がなくて、親しい友達を呼んで食事をするのが精一杯だった。
ウェディングドレスを着て宏樹とバージンロードを歩けなかったことは、ずっと私の心残りだった。
でも、それはもう昔の話。
私が喜ぶそぶりを見せないので、宏樹は何かを思いついたように、急いで付け加えた。
「明日の夜、教会を予約したんだ。あの頃の心残りを、一緒に叶えよう」
私は彼を見て微笑み、まずバッグから離婚協議書を取り出した。
「それより、離婚協議書にサインしてほしいの」
離婚協議書を受け取った宏樹は、きょとんとした顔で私を見つめ、やがて笑い出した。
「優香、君は本当に変わったな。昔みたいに研究のことばかりじゃなくなった。やきもちを妬いたり、プレゼントをねだったりするようになったんだ。
でも、嬉しいよ。君が望むものなら、なんだって叶えてあげる」
そう言うと、宏樹は余裕があるところを見せつけるかのように、離婚協議書の中身をろくに確認もせず、いきなり署名欄に名前を書き込んだ。
離婚協議書を私に手渡すとき、宏樹は感極まったように、キスをしようと顔を近づけてきた。
どうやって断ろうか考えていると、けたたましいスマホの着信音が彼の動きを止めた。
遥からだった。
宏樹はすぐに電話を切って、私を抱きしめようとした。でも、また着信音が鳴り響いた。
彼が何か言い訳をしようとするより先に、私は口を開いた。
「電話に出たら?何か急用かもしれないでしょ」
電話の向こうからは、か細い声が聞こえてきた。遥が足首を捻挫して、一人では動けなくなり、助けを求めてきたようだ。
電話を切った後、宏樹はばつが悪そうに私を見た。
「その……遥がちょっと大変みたいでさ。一人じゃどうにもならないから、俺、行かないと」
「早く行ってあげて。彼女を待たせちゃだめでしょ」
私がそんなにも物分かりがいいので、宏樹はかえって呆然としていた。
彼は私の手を強く握りしめて、私がどうしてしまったのか心配そうな顔で聞き出そうとした。
しかし、また電話が鳴った。
そしてついに、私に見つめられる中で、宏樹は手を離した。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)
第4話は公式アプリで
当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。
R79269- 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
- アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。